short | ナノ






チョコレートとマジック



「聖ちよこれいとの日だ」
「あ?」
「だから、セントチョコレートデイ。おわかり?」
言ってることはわかるが、その言い方の意味がわからんとクソ真面目に返された。
「私の発言にこれまで意味があっただろうか、いやない」
「やったら数学んノートば貸さんでよかな」
「おいそれはちがうんだ。意味はなくても意志はあるんだ」
訳分からん、と呆れられた。冗談の通じん奴だな。
「桔梗、きさん高校ばいったらどげんすっとね。自分でノートくらいとらんや」
「功刀とちがって優しい友達作るからいいし」
「ほお?」
功刀がにっこりと笑いかける。いやな予感しかしないのはどうしてなんだ。
「ドアホ」
「いっ!?」
机の下で、思いっきり足を踏まれ、立ち上がりかける。繰り返す、私はいま足を踏まれている。立てない。
「ってーな!」
そのまま机にごっちんこして、功刀を睨み付ける。あ、功刀はもともとつり目だからあっちの方が睨みが強い。負けた。
「誰んおかげで三年間勉強してこんか」
「……くぬぎ」
「もっと感謝せろや」
「イツモアリガトウクヌギサン」
「ぼてくりこかすぞ」
額にでこぴんをうけて、小さく唸る。
功刀が女子に人気あるなんて嘘だ。こんなに乱暴で愛想ないのに。え? 私は物好きって奴ですよ。
「…桔梗は物好きやな」
「よく言われる」
誉めてねぇ、と今度はふくみなく功刀が笑う。……わ、笑うとかわいい…かもしれない。
「で、功刀はチョコレートとかもらって嬉しいわけ?」
「いや。甘いもんはそんなに好かん」
即答されて、目を丸くする。男子ならもらって嬉しいだろうと思ってたんだけどな。
「量の問題やろ。チョコばっかやなかで、飴でもクッキーでもあれば困らん」
しかめっ面を見て、たしかに去年も大変そうだったな、と思い出す。紙袋二つ分のチョコレートは多いよな。
「急になんね。逆チョコなんやらんぜ」
「私はそんなにがめつくねーよ」
失礼な奴だ。なぜモテる。
「いや、最後だし功刀にチョコあげようかと思ったんだけど。…いらないでしょ?」
「いる」
「うん、だよね。……うぇえ!?」
珍しく男子にあげるから、ていうか功刀にあげようと思って作ったチョコをカバンにしまおうとすると、功刀の手が伸びてきた。握力強い。箱、取り落としそう。
「く、功刀?」
「くれんやろ」
「いらないんじゃ、なかった」
「大量にはいらん」
私が手を離した箱をキャッチすると、やっと功刀は手を離した。
「そんな大層なもんじゃないよ」
痛い、これ跡残るんじゃないか。
「桔梗からで十分」
「!」
ふっ、と笑った功刀を見て、こいつ意外と色んな表情できんじゃんと感心した。
悔しいけど、その笑顔に免じて惚れてやろう。