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庶民の生活〜フリマに行こう〜



庶民……ていうわけじゃないけど、普通の人でも知らないことがあるくらいだから、リュウ君なんかはフリーマーケットとか、きたことないんだろうなあ。
メグはよく一緒に行くけど、キュウ君やキンタなんかも行かなさそうだし。
「リュウ君、今日このあと暇?」
「バイトまでは」
「何時から?」
「六時半」
「よし、じゃあ面白いとこ連れてったげる!」
最近、こんな風にしてリュウ君を連れ回すのが日課になってきた。
次はどこにいこうか、何を見せたらリュウ君は喜ぶか。考えるのが、楽しくなっていた。



「今日はどこへ?」
「ふふふ。フリーマーケットって知ってる?」
「フリーマーケット…? 聞いたことないな」
「だと思った」
にっこりと笑って、簡単にフリーマーケットについて説明してあげる。
百聞は一見にしかず。
リュウ君が私の説明で興味を持ってくれたみたいだから、目的地まで少し急いでみた。



ブルーシートの上に、服や本、おもちゃやアクセサリー、小物、家具……いろんな物が並べてある。
お店を開いているのも主婦や大学生、手伝いの小学生など年齢はバラバラ。
いつもきているのよりは規模が小さいけど、はじめて見るリュウ君にはずいぶん大きなものに思えるんじゃないかな。
「こ、これが全部売ってるの…?」
やっぱり、驚いたように息をのんでいる。
「そうだよー。結構掘り出し物があるんだ!」
今日は平日だからか人が少ない。でも、はやく回って帰らないといけないから、はぐれないようにリュウ君と手をつないで歩き出した。



「うーん…百円玉、三枚しかないなぁ…」
「ええ? ……うん。じゃあ二百円でいい!」
「ほんと!? やった!」
「…桔梗?」
「なに?」
「百円玉、まだ」
「あ、どうもでしたー」
財布を片手にくるくると店を回り、値切りに値切って、学生に手頃な値段にする私をみて、リュウ君が感心したような呆れたような息をついた。
「嘘ついたな」
「みんなそれを見越した値段つけてるしね。値切ってちょうど」
反省した様子もなく、けろっと言うと、リュウ君はうーんと唸った。
「あはは。リュウ君はほしいものとかなかった?」
「僕は特に…」
「ないの? 本とか、食器とか?」
「うん。それに、桔梗を見ているだけで楽しいから」
くすりと、はしゃぎまわる子供を見守るようにリュウ君が微笑んだ。なんだか照れくさくなって、リュウ君の手をとってみたけど、ますます恥ずかしくなるばかりで、私たちはお互いに黙り込んで歩き出した。