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庶民の生活〜ゲーセンに行こう〜



コンビニに興味をもったリュウ君なら、ここには来たことがないだろう。
というか、数馬とリュウ君はお坊ちゃんだから、行ったことないよねって言ったら、数馬が興味をもったのだ。もちろん、口には出していないけどリュウ君も気になったみたい。
私たち六人は、そういうわけで、ゲームセンターに足を運んだ。



「これがゲームセンター? 小さいんだね」
「いや、数馬の感覚がおかしいだけだから」
自動ドアをくぐればそこは別世界で、自分の声もきこえないくらい大きな音楽に、カラフルなゲーム機、それらで遊ぶ多年齢層の人々で溢れている。
「ずいぶんとうるさいんだね」
「馴れだよ馴れ」
「まずはこっちだ!」
キンタが、みんなを案内してくれる。
レーシングゲームや、ゾンビを倒すゲームなどはキンタがキュウ君やリュウ君を順番に誘っていた。
キンタはもちろん、リュウ君が意外と強くて、ほんとに万能だなあと感心。……キュウ君は、予想はしてた、うん。
私とメグはみんながやってるのを見てるだけで数馬はアクション系はやらなかった。たしかに苦手そう。
シューティングゲームは、キンタがダントツで、これは意外とキュウ君や数馬も得意だった。
「ゲーセンといえば?」
「ユーフォーキャッチャー!!」
キンタの問いかけに、メグが勢いよく答える。キンタは頷いて、うしろの大きな機会を示した。
「こいつは運とセンスが必要だ」
「ふーん」
数馬が興味なさそうに眺めている。キュウ君はやっぱり苦手みたいで、ボロボロ取り落としていて、なんだかおかしい。
「キンタ、あのぬいぐるみとって!」
メグが頼むと、キンタはおやすいご用だと言って、クレーンの操作ボタンに手をかけた。けれどなかなかとれず、三回目にやっとぬいぐるみをとった。
「…いいなー。あのうさぎさん欲しい」
ぽつりと呟くと、それまで固まっていたリュウ君が百円玉を機械に入れた。
「お、リュウがやる気だぜ!」
「ちょっと黙ってて」
真剣な眼差しで、慎重に操作していくリュウ君に、私たちもつられて息を潜める。
ガタガタとしたクレーンの動きのあと、ぬいぐるみがぼとりとおちてきた。
「桔梗」
「ふえ?」
「あげる。欲しいんだろう?」
「あ、ありがとう!」
リュウ君に手渡されたそれはふわふわした手触りで、きれいな毛並みに顔を埋める。
「やるな、リュウ」
「まぐれだけどね」
「謙遜しちゃってー」
でもどうやら、リュウ君的にユーフォーキャッチャーはツボだったみたいで、とれたりとれなかったりしながら何度も何度もやっていた。
その間キンタは数馬やキュウ君を引き連れ回していろんなところに行っていた。



2対2のホッケーゲームで、リュウ君&キュウ君VSキンタ&数馬の試合をしているときだった。
試合を見ていた私とメグのうえに、やけに大きな影がかかり、不審に思って見上げると、高校生くらいの、いかにも不良そうな人たちがいた。
「おいおい、ここはテメーらみたいなガキのくるとこじゃねぇぞ」
「俺たちの勝手だろ!」
「あん? なま言ってんじゃねーぞ」
頭の悪そうな喋り方をする不良が、見た目からかとりあえずキンタに絡む。
数馬やメグはすっかり怯えてしまっている。
ふと、不良の一人が、淡々と事の成り行きを見ていたリュウ君に目を留めた。…まずい。リュウ君はみての通りかっこいいので、不良などには絡まれやすい。そして予想通り、
「なんだテメーは」
「あんたみたいな人間に名乗る名前は持ち合わせてないな」
…それと、言い忘れてたけど、リュウ君の挑発はかなりいらっとする。
「なんだとくそガキ…!」
「待てよ。お前等こそなんなんだ」
「喧嘩はよくないよ、キンタ!」
キュウ君は相変わらずズレている。けど、そのおかげか、不良たちは興が削がれたようで、悪態をつきながら出て行った。



「一時はどうなるかと思ったあ」
「リュウが挑発なんかすっから…!」
「別に、そんなつもりはなかったんだけど」
「何はともあれ、何事もなくてよかった」
ゲーセンを出てみんなで歩きながら、アイスを食べている。
庶民代表・ガリガリ君を買ったら、リュウ君はともかく、数馬がすごく驚いてた。まあ、リュウ君はこの前コンビニで見たからね。
「でも、楽しかったね!」
「またきたいなー」
「ぼくはもういいや…」
「なーにいってんだ数馬!」
キンタとキュウ君はまだ元気があるみたいで、アイスのあたり棒をめぐって走り回ったりしている。
「…また、きたいな」
リュウ君が呟いた。