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庶民の生活〜コンビニに行こう〜



リュウ君は、そうとうなお坊ちゃんみたい。
外見、発言、雰囲気その他諸々から察せられるけど、そうとわかると、やはり気になるのが…食生活。
なんだか複雑な家庭のようだけど、納豆も食べたことがないっていうんだから、コンビニなんかいったことないだろうねって言ったら、「知識としては知ってるけど」って返ってきた。
「というわけで、リュウ君、コンビニに行こう」
「急に何?」
「いや、そのままの意味だけど。だってこのあと用事ないでしょ?」
「まあ、今日は特に何もないけど……」
「じゃー決まりっ!」
善は急げ。急がば回れ。
矛盾したことわざだよね。
それはさておき、私はリュウ君の手を取って街に繰り出したのだった。



「近所でもセブン、ローソン、ファミマ、サークルK…いっぱいあるよ」
「僕はよくわからないから、桔梗が決めてくれ」
「じゃあ定番で、セブンに行こうか」
リュウ君は本当に何も知らないらしく、私があちこち指差して説明してあげると、表情には出さないけど驚いているようだった。
なんか、王子様がお忍びで城下町に遊びにきてるみたい。私は、リュウ君の家来か、街の娘かな?
「すごいな…本当に存在していたのか」
「え、そこまで言う?」
いちいち反応が面白いから、つい嘘を吹き込みたくなる。これきっと、バレたときすっごい怒られるんだろうなあと思いつつ、リュウ君と歩く。
「あ、あれだよ!あのオレンジ、赤、緑に7がかの有名なセブンイレブンだよ!」
「あれが? …有名なの?」
「うん、基本だね」
コンビニは中に入ってこそ。
というわけで、さっそくリュウ君とセブンに突入!



「リュウ君? まだあるんだけど…」
「あ、ああ…ごめん。あと少し見せて」
今いるのはおにぎりとかサンドイッチがある一角。
リュウ君は全てが目新しすぎて、いろんなところをじっくり見て回っていた。
今日中にあと二、三軒行こうと思っていたけど、どうやら無理そうなので、リュウ君はほっといて、自分の分をかごにいれてレジで清算する。
まだ、リュウ君は棚をみている。こういうところを見ると、なんだか子供っぽいというか、同い年に見えるというか、得した気分。
こんなに興味をもってもらえるなら、また暇なときにコンビニに来るのもいいかなーと思った。
デートには色気がないけど、リュウ君がいればそれでいいや。



「コンビニ…驚いた。あんなに物があるなんて」
「最初はそうだよね。すぐ慣れるよ」
公園のベンチに腰掛けて、私の隣でリュウ君は今日の発見を嬉しそうに振り返っていた。きっと家に帰ったら自慢するんだろうなって想像できるくらい。
「リュウ君が楽しめたならよかった」
「ありがとう、桔梗。迷惑じゃなければ、また暇なときに誘ってくれない?」
「うん、いいよー」
コンビニ巡りか…ま、それもいいよね。
「それにしても、遅くなったね……大丈夫?」
「うーん。そろそろ帰ろうかな」
「そっか。駅まで送るよ」
「いいよ、別に」
あたりを見回して、リュウ君が提案するけどお断りさせてもらう。早く家に帰って自慢したいだろうし。
「じゃあ、気をつけて」
「はいはーい。あ、そうだ。リュウ君、これ、あげる」
ビニール袋をあさって、さっき買った物をリュウ君に渡す。
リュウ君は不思議そうな顔をしてそれを受け取ると、あ、と言った。さすがに知ってるみたい。
「じゃあね」
「あ、桔梗、」
ひらりと逃げるように、リュウ君に手を振って私は公園から駆け出した。
セブンのあったかいものは、オススメなんだ。



(それで、リュウは桔梗に肉まんもらったの?)(ああ。美味しいんだね、コンビニの商品は)(も、ものによるけどね…)(リュウ君、キュウ?今日納豆ご飯でいい?)(ありがとうございます)(え、また?)