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ボーイ・ガール・ジェラシー



夏も盛りのある日、Qクラスは市民プールに遊びに来ていた。
屋外プールはなかなか混んでいて、日差しが降りしきる中、キュウ、キンタ、数馬、リュウはメグと桔梗を待っていた。
「二人とも遅いね」
「どれ、ちょっくら見て……」
「お待たせー!」
「ごめんなさい。遅くなっちゃって…」
キュウとキンタが、またよからぬことを考えていると、ちょうど二人が駆け足でやってきた。
「遅い!」
「ごめんっ」
キンタが言うと、メグは片目を閉じて謝った。
「もういいけど…」
最初から気にしてなさそうな数馬が、ちらっと二人を見た。
メグは薄ピンクで赤いラインで縁取られた上下分かれたいわゆるビキニで、桔梗は黒くて背中の大きくあいた水着にサンパレスを結んでいる。
どちらかといえばメグに目がいってしまいがちだが、よく見ると桔梗の方がスタイルもよく、目を引く。
「……何考えてるんだ、数馬」
「別に〜」
リュウが横目で数馬を睨むと、数馬はおどけたように肩をすくめた。



ビーチバレーや飛び込み、我慢大会などひとしきり遊んでから、六人は昼食をとりに売店に向かった。
その先には、なぜかAクラスの六人がいた。
「あれ、Aクラスの?」
「おや、Qクラスのみんなもかい?」
「雪平さん、遠矢さん、こんにちは」
「奇遇ね」
すでに食事を終えたらしいAクラスの跡地でQクラスが食事をとっていると、三郎丸がまた、ろくでもないことを言い出した。
「どうだい、QクラスとAクラスで水泳競争なんて?」
「おもしろそうじゃねえか!」
「いや、オレかなづち…」
「なにか賞品をかけようか。何がいいかな?」
「それなら、勝った方が負けた方から一人かりれるっていうのはどう?」
「うん、いいね」
「それ、Aクラスしか得なくない?」
「じゃあそっちが勝ったら三郎丸がアイスおごるわ」
「うん、いい…ってえ!?」
「まあそれなら…」
「で、そっちがかりたいのはもちろん」
「桔梗よ」
「あ、あたし?!」
「受けて立とうじゃねえか!」
「せいぜい泣かないようにね」
「いや、だからオレ…」
「なんであたし…?」
「アイスなんておごらな…」
キュウ、桔梗、三郎丸の発言は一切スルーで、水泳競争が取り付けられた。



「じゃあ、ルールの確認」
そういって確認したルールは3つ。
一つは、クロールで25メートルを往復、つまり一人50メートル泳ぐこと。
二つ目は、前の人が壁をさわったら、次の人が飛び込むこと。
三つ目は、相手の妨害はしないこと。
「これでいいね?」
「ああ!」
「なんか話進んでるし…」
「キュウ、もう諦めよう」
桔梗が苦笑しながらキュウの肩をたたいた。
「じゃあトップバッターは誰?」
「こっちは俺だ!」
キンタが手を挙げると、Aクラスは郷田が手を挙げた。
「さ、用意して?」
桜子がすっかり場をしきっていて、賞品の桔梗は桜子の隣にちょこんと立って、キンタに声援を送っている。
「レディー…ゴー!!」
桜子の声で、両者同時に飛び込んだ。



最初はQクラスの方が調子がよかったのだが、キンタ、数馬、メグまではともかく、そのあとのキュウが足を引っ張った。
途中からギャラリーが詰めかけ、QクラスとAクラスどちらがかつか、賭けまでしているくらいだった。
キュウが溺れながら白峰から大幅に遅れて桔梗にタッチすると、桔梗はすでにターンしそうな桜子目掛けて泳ぎ始めた。
桜子も速いが、桔梗はそれよりも速く、あっという間に桜子に追いついた。
「頑張れー! 桔梗!」
メグの応援に後一踏ん張り、と桔梗はさらにスピードをあげ、いよいよ桜子を追い抜いてリュウにバトンタッチした。すぐに桜子も獅子戸にバトンタッチし、すいすいと進むリュウに、徐々に追いついていく。
勝負らしい勝負にギャラリーは息をのみ、賞品である桔梗はリュウに望みを託し、両者の猛追を見つめていた。
水しぶきをあげながら戻ってきた二人がほぼ同時に壁にふれると、桜子がしばらく考え込んでから口を開いた。
「……数秒差で、…Qクラスの勝ちね」
わっ、とギャラリーが盛り上がり、AクラスとQクラスは、かたく握手を交わした。
「やるな、あんたたち」
「ま、桔梗がかかってたからな」
「残念だよ。次は負けないよ」
「臨むどころだね」
何事もなくすんで、桔梗がほっとしていると、不意にリュウが桔梗の手を取って歩き出した。
「り、リュウ?」
「うわ、抜け駆け!」
「ま、いいんじゃねえの?」
「あれくらいしないと、彼、自分から行動しないし」
慌てるQクラスをなだめながら、Aクラスはさして驚いた様子もなく二人を見送った。



「ねえ、リュウ。どうしたの?」
「………」
手を引いて黙々と歩くリュウに、桔梗はため息をつくと大人しくリュウについていった。
ギャラリーに集まったせいか、人が少ないプールのはしでリュウが立ち止まった。しかし何も言わない。
桔梗はすとん、と腰を下ろすと、リュウの手を引いた。
「座ったら?」
「…ああ」
リュウは桔梗の隣に座ると、また黙ってしまった。
「…どうしたの、リュウらしくない」
桔梗がぽつりと呟くと、リュウがやっと口を開いた。
「…ほかの奴に、桔梗の水着姿見られたくなかった」
「……それだけ?」
「…それだけじゃ駄目かな」
すいと外していた視線を合わせられ、桔梗はぱっと赤くなる。
「…リュウって意外とヤキモチ妬きだよね。あたしも人のこと言えないけど」
桔梗がくすりと笑うと、リュウも黙りはしたが否定はしなかった。
「あたしだって、リュウかっこいいからほかの女の子にみてほしくないよ」
桔梗が言うと、リュウは少し顔を赤くして立ち上がった。
「…何か買ってくる」
「あ、ソフトクリーム!」
自分から言い出したくせに恥ずかしくなったらしい。



「リュウって独占欲強いよな」
「その割に微妙にヘタレ」
「にしても、桔梗かわいいな〜」
「キュウ、お前メグじゃないのか?」
「桔梗の方がかわいい」
「リュウがいるから迂闊なことできねえけど」
「そうなんだよねー」
「正直リュウだったら勝てる気がしねえよ」
「うん、なんか仕方ないなーと思う」
「けど、それとこれとは別だからな」
「そうそう。…?」
「………」
「………」
「…キュウ、何か背後から凄まじい負のオーラ…むしろ殺気を感じるんだが気のせいか?」
「オレも感じるよキンタ…」
「振り返るなよ…振り返れば死ぬぞ…!」
「駄目だキンタ、振り返らなくても死ぬ!」
「まずい…」
「魔王が…魔王が降臨した…!?」
「それで、キュウとキンタは何をしていて、誰が魔王だって?」
「「出たー!!」」