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究極左論



「だから俺はいやだっつったろ!」
水野の声が耳にいたいと思った。反省はしてない。

文化祭でサッカー部も出し物したいなって誰かが言いだしたのがきっかけだった。たぶん、例によってシゲだとかだったと思う。
だからまあ、ウケそうだなと思ったことを用意しただけなんだ。だからわたしは悪くない。悪くないよ別に!
「どう考えてもお前の責任だろうが」
「あたっ」
そんなセーラー服でいわれても。
「なんや、タツボンよう似合っとるやんけ」
「…お前もな、シゲ」
中学だから出店は出せないので、サッカー部のアシストをつけて、サッカー部員を一人抜けたらスタンプ一個、シュートがきまったら(キーパーが不破じゃ話にならないから、一年生だけど)スタンプ二個ってルールにした。ちなみにスタンプは全校共通で、いっぱい貯めるといいことがあるらしい。わたしも集めたい!
そんなわけで、サッカー部はグラウンドに会場を設営したわけなんだけど、ディフェンスが水野やシゲだったらぬかせないから、二人にはアシストにまわってもらう。…はずだった。
「つーか呼び込みくらいお前がやれ!」
「やってるよ」
わたしだってこんなに働いてるのに! 鬼姑! といえば、がっと胸ぐらをつかまれて殴るぞと笑顔で言われた。これはそうとう怒っている。
「こうでもしなきゃ、人来てくれないじゃん」
「お前なあ、これならジャージでも同じだったんじゃねえのか?」
「ちがうよ。ほら、二人の集客効果だって」
シゲはノリノリでやってくれると思ってたけど、水野がここまで拒否するとはさすがに予想外。それともあれか、水野が正常でシゲがちがうのか。それはそれで納得するけど。
「でもおかげでお客さんいっぱいきてるし…」
「そういう問題じゃない」
こめかみに怒りマークをはりつけた水野に、首を傾げる。だって少なくとも、集客することは了承してもらったはずだ。それがどうしてセーラー服につながったかはわたしもわからないけど。
「じゃあなに? シゲはこんなにノリノリで働いてくれてるのに…!」
「一緒にすんな!」
「いややわ、タツボンのいけずー」
まあ、ノリノリでもシゲよりは水野のほうが似合ってる気はする。シゲの背が高いからかな。
「だいじょうぶ、似合ってるって!」
「だからそれがうれしくないんだ!」
似合ってるってほめてるのに! と嘘泣きをする。ばれて怒られる。
でも二人はわたしとちがってスカートの下にジャージをはいてるから動きやすいし、あったかいはず。ずるい! わたし寒い!
「くそうイケメンめ」
「……はあ」
秋口にずっと外に立ってるのは寒い。もうやだ。中に入ろうかな。
「ちょお、俺ごっつ寒いわ。いったん中入って着替えん?」
もうじゅーぶん宣伝したやろ、とナイスタイミングでシゲ。
「そうだな」
賛成する水野。
なんだか先に言われたのはおもしろくなかったけど、寒いからそうしようとうなづく。
「でもジャージはいてたのにシゲと水野も寒いとかずるい。わたしはいてなかったんだよ」
「いやまあそうやけど」
そないなこと言われても、とシゲが苦笑いする。
「何でもいいからはやく行くぞ」
さっさと行ってしまいそうな水野を慌てておう。
「はやい」
「はやく着替えたいんだから当たり前だろ」
「似合ってるのに?」
「似合ってるかどうかじゃなくて、だれが好き好んで好きな女子の前でセーラーなんて着るか!!」
「……ん?」
あ、と水野が慌てて口を閉じると、先に行ってしまった。
残されたのは、ポカンとするわたしとシゲ。
「ほー」
「…い、いこっかシゲ!」
頭が混乱するので、詳しくはあとで本人からきこうとシゲを引っ張って部室棟の方へ向かった。





(友人へ愛をこめて!)