short | ナノ






人間は時速××キロにはなれない。はず



朝目が覚めると、遠退いていくバイクのエンジン音が聞こえた。
そういえばクラウドさんはバイク持ってるって言ってたな。一階の廊下に、日常では乗り回すはずのないゴツいバイクがあったはず。あれを乗り回すってことは、やっぱり彼もふつうではないのかと考えたところで玄関のチャイムが鳴る。
「あ、はいはい〜」
朝早くからなんて誰だろう?
……まさか、セフィロ……いや、さすがにそれはないよね。まだそんなに親しい間柄ってわけでも

「おはよう双葉。肉じゃがを作ったんだが食べないか?」

あれー?
「お、はようございます。朝早くからどうしたんですか…その、肉じゃが、なんて」
「その、だな、いもがあったから作りたくなったんだ」
しどろもどろになりながらも、目の前のお隣さんはタッパーに入った肉じゃがを押しつけてきた。
セフィロスさんの肉じゃがはおいしいから好きだけど、なぜ朝っぱらから? という疑念はつきない。
「ありがとうございます…」
さすがに寝起きで現役モデルさんは申し訳ないというか恥ずかしいというか、そんな気持ちになる。
まあでも、くれるというのだからありがたくいただくことにしよう。まさに朝食どうしようか考えていたところだから。
「ところで双葉」
「はい?」
「クラウドはいま、家にいると思うか?」
「えー……いない、と思いますよ。さっきバイクの音がしたから」
よく見ると、セフィロスさんはもうひとつタッ…鍋を持っていた。いつも思うのだけど、いくら男の人だって毎回そんなに持ってこられても困るんじゃないかな。クラウドさんはいつも大変そうだ。
「そうか……」
お鍋をかかえて、ちょっとしょんぼりするセフィロスさんは、なんだか年上の男の人には見えなくて、かわいかった。失礼だから、さすがに本人には言わないけど。
「では」
「あ、ありがとうございましたー」
一瞬で切り替えると、セフィロスさんは隣の自宅に戻っていった。
ドアを閉めようとして、近付いてくるバイクの音にはっとする。すると、今まさに自宅に入っていったセフィロスさんがドアをバン! と開けて出てきた。片手に鍋を持ったまま下の階をのぞき込むと、すぐに走り出して階段を下りていく。
「…忘れ物でもしたのかな」
たぶんクラウドさんが戻ってきたのだろう。それにしても、朝だというのにセフィロスさんは慌ただしい。騒がしいとも言うけど。
「おはよう! クラウド!!」
「なっ! なんでアンタが……!?」
下の階から、テンション高めなセフィロスさんの声と、逆にテンションの低いクラウドさんの声がする。サンダルをつっかけて外にでると、下の階をのぞき込む。家に鍵をかけている最中のクラウドさんに、セフィロスさんが迫っている。……これだけ見ると、セフィロスさんが変態みたいだ。
「お前に肉じゃがを送ろうか」
「アンタはいつもそればかりじゃないか…っ」
じりじりと後ずさるクラウドさん。
「さあ、クラウド。いい子だ……」
「来るなッ!!」
クラウドさんはセフィロスさんにくるりと背を向けると走り出した。セフィロスさんも、鍋をかかえたまま追いかける。……置いていけばいいのにと思わなくもない。
「あ、」
バイクのエンジン音がして、クラウドさんが再びバイクを発進させたのだとわかる。
「一階って便利だなあ」
バイクがあるから、クラウドさんは一階なのかなあと思いつつ、スピードをあげていくクラウドさんをなおもセフィロスさんが追いかけていた。……あれ、バイクって速いよね?


「待て、クラウド!!」
「アンタは時速何キロで走ってるんだ!?」

セフィロスさんはとても足が速い、みたいです。
(結局肉じゃがは受け取ってもらえなかったみたいだけど。)





(澪へ愛を込めて!)