怪盗と盗人



※劇場版ルパン三世vsコナンのネタバレを含みます(2013.12/15現在)





警察の車両が道路に固定され、物々しい雰囲気で警官たちが警備をしている。とあるビル……正確には、その中にある宝石を守っているのだ。上空にはヘリまで飛んでいた。
野次馬が山のように押し掛けており、見れば女性の方が多い。
まったく、何がどうなっているのかわからないまま野次馬に紛れてビルの屋上を見上げた。
夜風にはためく白いマント、手袋をはめた手には煌めく宝石。
「キッドだ!」
誰かがそう叫ぶと、野次馬たちが声を揃えてキッドコールをする。
キッドはいつものように屋上から飛び降り、ハングライダーを開いた……が、大きな風を起こされてハングライダーの制御が乱れる。キッドは為すすべもなく風に流されていく。野次馬から「ああ」という声がもれ、泥棒だというのに警察よりもキッドを応援していることがわかる。
間抜けにも程がある格好で飛んでいくキッドを見上げながら、思わず呟いた。
「誰だ、あれ」
俺がここにいることから、あそこで漂っているキッドは百パーセント偽物なわけだが、それならそれで誰が何のために、という疑問が残る。
「つーかツメが甘ぇよ」
中森警部のすることも派手だが、俺ならハングライダー以外の手段も用意しておく。それに、キッドのときにああまで無様な格好を見せるわけもない。
誰だか知らねえが勝手に人の真似するなよな、と内心愚痴っていると、ポケットにいれたケータイが振動した。ディスプレイには、見慣れた名前。
「もしもし?」
『あ、出た。キッド今日仕事だったの?』
「バーロー。んなわけあるかよ」
人混みから離れる。電話の向こうにいるひなは、どうやら友起さんに報告しているようだ。
『吃驚したよ、テレビにキッド出てるんだもん。しかも飛ばされて…あ』
「あ? どうした、ひな」
テレビ局まで出てるのかと思えば、ひなが息をのむ。聞き返したが返事はこない。こちらでも偽物の姿を探すと、すくい上げよろしく湾から巨大な網を引き上げていたクレーン車に発砲している瞬間をとらえた。
「おいおい…やめてくれよ」
キッドは決して人を傷付けない、そういうモットーなのだ。それは中森警部もよく知っているし、俺が命を見捨てないがために名探偵がそれを逆手に取ったこともあるくらいだ。
『…良かった』
「何が。俺としてはなんにもよくねーんだけど」
俺に向けた言葉じゃないだろうと思ったが、耳が拾ってしまって聞き返す。
『怪斗じゃなくて、』
だから何が、と訊ねようとして口を噤む。その時に理解した。
『怪斗は、あんな人を傷付けるかもしれないこと、しないよね』
ゆっくりとしたひなの言葉を噛み締める。いま、ひなのそばに友起さんがいてくれて良かった。一人だったら彼女は泣いていただろうから。
「あたりめーだ。…どこのどいつか知らねえが、この借りはキッチリ返すぜ」
ひなはきっと、あの雨の日を思い出しているのだ。克服したと言っても、すっかり平気なわけがない。誰かが傷付くのは見たくないと言っていた。だからキッドは、自分以外に怪我を負わせることをしなかった。
それなのに。
「半端な仕事すんなら、キッドなんてやるんじゃねえよ」
ワイヤーと、おそらく仲間が手配していたのだろう船で偽キッドは逃げおおせた。スケボーに乗った名探偵がすごい速さで船を追いかけていったのは、見なかったことにしよう。
「ひな」
『うん?』
電話越しでは、感情がくみ取れない。
「今から帰る。んで、友起さんちに行くから待ってろ」
『…うん、待ってる』
「よし、いいこだ」
偽キッドについて友起さんと話さないと気が済まないという理由もあるが、何よりもひなに会いたかった。
足早にこの場を後にしつつ、俺のせいじゃねえのに明日は青子の機嫌が悪いんだろうな、と思った。



[*prev] [next#]
[しおりを挟む/top]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -