オー、ベイビー!



ごめん、ティッシュ一枚ちょうだい、とひな。渋々一枚渡せば、彼女は腕に抱いた赤子の口元を拭き取った。
「ごめんね、快斗。友起君が、知り合いの子供を預かってて。今ミルク買いに行っちゃって」
「……ああ」
別に、約束していた夕食は準備されているし、赤ん坊が俺を見た途端泣き出したってわけでもないが。
「祐司君、はいどうぞー」
小さな口に食事を運ぶひなの姿を見ていると、ついつい箸が止まりそうになる。
「…快斗? 口に合わなかった?」
「え? いや、いつも通りうまいぜ」
「なら良かった」
自分の分はあとで食べるのだと言っていたが、決して軽くはない赤子を片手に家事をするひなは、正直新妻にしか見えないのだ。エプロンもして、なおかつ、家には今、友起さんもいない。
「祐司君、快斗お兄ちゃんのマジック見たくない?」
ひなに反応して嬉しそうにきゃあきゃあ言う赤ん坊。
「見るか、ボウズ」
手を叩いてご所望なので、花を出し、鳩を飛ばし、祐司と共にくるくる表情を変えるひなを見つめた。
「すごいねぇ、祐司君!」
食べ終わった食器を流しにさげて、賑やかしにつけていたテレビを消す。
「ひな、俺が預かってっから、飯食っちまえよ」
「え、でも…」
「いいから!」
ほれ、と手を出せば、祐司の方から手を伸ばしてきた。その身体を抱き寄せて腕に収めると、意外と重たくて驚いた。
「じゃあ、ちょっとお願いするね?」
「おう」
正面で食事を摂るひなを横目に、勝手がわからない子守に勤しむ。首をきちんと安定させて少し体を揺らしてやれば、案外簡単に喜んだ。なかなか可愛いもんだぜ。
「…快斗って、いいお父さんになりそう」
くすりと笑ったひなにぱっと顔を向ける。
「俺、まだ高校生だけど」
「将来の話」
祐司がひなに手を伸ばす。ひなは微笑んで、その手に触れた。
「なあ、ひな?」
「うん?」
「あのさ、将来、こんな子供ほしいな」
いつものように恥ずかしがらせてやろうとか、キッドみたいに気障なことを言おうと思ったわけじゃなかった。ぽろっと、本音がこぼれた。
「……快斗。結婚したらね、奥さんにも、子供にも心配かけちゃダメだよ。快斗だってわかってるでしょ?」
「ひな…」
そう言われて思い出したのは、父さんのこと。俺の前では、いつも世界を飛び回るマジシャンだった。だけど家にはあまりいなかったから、それがキッドの仕事だったと今ならわかる。
両親がいないひなだから。愛情は人一倍受け取って、けれどそれを突然失ったひなだから。その言葉は、ひどく重い。
「…そうだな」
だけど俺だって、父さんが殺された真実を知りたい。それがわかるまで、怪盗キッドを降りるわけにはいかない。
「今から未来の奥さんに心配かけてちゃ世話ねえよな」
「未来の…?」
「なあ、ひな」
友起さんがいたら、俺間違いなくシバかれるだろうな。
「その薬指、俺のためにあけといてくんない?」
「っ…!?」
真っ赤になったひなが小さく頷くと、祐司が不思議そうに首を傾げた。



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