その顔のワケを



この間、雨の日に見かけて以来ひなの様子が変だ。どこか上の空で、声をかけるとはっとしたように顔を向ける。俺じゃ頼りにならないのだろうか、と考えていると、時期はずれな転校生がやってきた。
「駒形麻里沙です。よろしくね、浅野さん」
駒形は、隣の俺には目もくれず、ひなにだけ挨拶をした。ひなに校内案内を頼んでいるのも、女子だからという理由からだろう。だけどその割には、二人の表情が気になった。
ひなはまず、教室に入ってきた駒形を見た瞬間顔を強ばらせた。挨拶してきた駒形に笑顔を返そうとして、かなりぎこちないものになっている。初対面で緊張してという範囲を、明らかに超えて。
駒形は、ひなの後ろに座ると、じっとひなを見つめていた。冷たい、感情を押し殺した瞳で。それからひなに話しかけて、校内案内を頼む。話しかけられたひなは動揺しつつも、駒形にオーケーを出す。
「あ、そうだ浅野。お前、放課後委員会なー」
「え!?」
ひなが案内できなくなったとき、あまり深く考えずに、口を開いていた。
「駒形さん、俺でよければ案内するけど?」
ひなに駒形のことをきいて、傷つけるのが怖い。だから、見ず知らずの駒形ならと思っての提案だった。
「えっと…?」
「ああ。俺、黒羽快斗ってんだ」
言いよどんだ駒形に名乗る。駒形は少し考えたあと、頷いた。
ふとひなを見ると、彼女は下唇を噛み締めて、何かを押し隠しているようだった。視線が不安げにさまよっている。かすかに寄せられた眉が切なげで、どこかむず痒く感じられる。
ひながどうして泣きそうな顔をしているのか知りたくて、俺は駒形に話しかけた。きっと正面からは教えてくれない。そう考えての行動が裏目に出るとは、思ってもみなかった。



[*prev] [next#]
[しおりを挟む/top]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -