ひとつ貸しだぜ?



キッド、と、ひなが滅多に呼ばない方で俺を呼んだのは、ごく普通の休日だった。
「俺いま黒羽快斗だけど」
「いつの間に、また仕事入れてたの? 園子ちゃんのおじさんなんかに」
「…………はあ!?」
しばらく考えたあとに聞き返すと、ひなは不思議そうに首を傾げながら読んでいた新聞を広げた。例によって一面広告で、『キッドからの予告状!』と大々的な見出し。
「いつもと違って縦書きだし、これ暗号にしては言葉が難しいだけじゃない?」
そう指摘されて、改めてまじまじと見る。言っておくが、これは俺が出したものじゃない。ひなの言ったとおり縦書きになっているし、最後のマークも違うものだ。何より、俺自身出した覚えがないのだから。
「誰か愉快犯かなぁ。キッドの名前で世間を騒がす、みたいな」
「いや……」
仮にもあの鈴木一郎。この程度は偽物だと見破りそうなものだ。どこか違和感がある。
「どっちにしても、快斗じゃないのね。朝からびっくりした」
新聞を折り畳もうとしたひなの手を遮る。
「ちょっと待て」
あからさまな偽物を本人が宣伝するということは、何か意味がある。そして普段は横書きにしているものが縦書きで…。
「そうか、わかったぜ!」
「何が?」
きょとんとしたひなの頭を軽く撫でると、ひなの紅茶をいただいて部屋に引き下がる。
「悪い、思い出した。仕事でしばらく出るわ!」
「ええ! 何も言ってなかったじゃん!」
「だから、思い出したっつってんだろー」
ニマニマしながら、必要なものを用意していく。鈴木一郎直々に、『手を貸してくれ』と頼まれては断れまい。何より、普段は敵同士、貸しをつくっておき、一度くらい見逃してもらうのも悪くはない。
「もー…意味わかんない…」
ひなにはあとでうまいこと言っておこう。基本的に詳しい内容は教えないが、おおざっぱには教えるようにしている。心配をかけるからというのもあるが、友起さんの力を借りることもあるからだ。
「じゃーな、ひな。二、三日戻んねーけどいい子にしてろよ」
「嘘、ほんと?」
椅子に座っているひなを後ろから抱き締めたあと、そのまま家を出る。さて、今回はどんな奇術が待っているのか、楽しみだぜ。



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