胸に手を当てろ



私は今、非常に腹が立っている。この電話にも出たくないくらい。
「ひな、電話出なくていいの? 彼氏でしょ」
「…だから、だよ」
蘭ちゃんに言われて、渋々通話ボタンを押す。念のため、みんなから少し距離を置くことも忘れずに。
飛行船のハイジャック事件で散々事情聴取をされて次の日、和葉ちゃんたちと大阪をまわることになっていた。それからもう一泊して、新幹線で帰宅。その予定だったけれど、快斗からの電話でいま、その予定がおじゃんになりそうだ。
「…もしもし」
『出るの遅えよ。ひな、今どこにいる?』
「どこでもいいでしょ」
『なっ…何だよ、その言い方。せっかく大阪にいんだから、デートしようぜ』
「嫌」
きっぱりと断ると、電話越しに息をのむ快斗。まさか、身に覚えがないとは言わせない。
「蘭ちゃんにキスしようとしたんだって?」
『んでそれを…!? ってかそれは未遂だ! してねえ!』
「しようとしたのは否定しないのね」
園子から聞いたのだ。キッドが、スカイデッキで蘭ちゃんにキスをしようとしていた、と。蘭ちゃんはしてないと言っていたし、キッドはろくな奴じゃない! と怒っていたけれど、やはり私としては複雑な気持ちになる。私は快斗の恋人であって、キッドの恋人ではないけれど。そうは言っても。
『仕方ねえだろ、ああしなきゃ捕まるとこだったんだよ』
「はいはい、そうですか」
そんなこと言って、素が出ただけじゃないの。
『…オメー、妬いてんのか?』
「さあ、どうかしら。とにかく私は、和葉ちゃんたちとまわるから。先に帰れば? じゃあね」
『あっ、おい!』
無理矢理通話を切ると、蘭ちゃんたちのところへ戻る。少しは私のことも考えればいいのよ。
「どうだった?」
「別に。ムカついたから、早く行こう!」
和葉ちゃんの手を取って歩き出す。振動する携帯は、無視だ。



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