降る夜



「こんな夜中に、外に来いって…何よー」
春も浅い夜。友起君が留守にしている家でゴロゴロとしていたとき、携帯がメールを受信した。
「風邪ひいたって知らないわよぅ…」
愚痴りながらも、結局上着を着込んで靴を履いている自分が悲しくなる。
「おう、ひな」
「…てかいたの。チャイム押してよ」
玄関を開けると、ダウンを着た快斗が立っていて、私は呆れてため息をついた。
「どこに行くの?」
「まだ内緒」
いたずらっぽく笑うと、快斗は歩き出した。鍵をかけて、そのあとを追いかける。
「ねー、快斗ってば」
楽しそうに笑ったまま、快斗は答えない。いつだって自由奔放なんだからと呆れると、思い出したように立ち止まった。
「ひな、手つなごうぜ」
「な、なんで」
「寒いから」
「……あっそ」
寒いなら手袋でもしてくればいいのに、と不満を抱く。
「ここ…廃ビル?」
「あたり。登るぞ、足元気をつけろよ」
私の手を引いたまま、快斗は階段を上がっていく。快斗の小さな懐中電灯だけが頼りで、汚れた壁に手を突きながらついて行く。建物自体はあまり高くなく、四階か五階分の階段を昇った。
「じゃ、ちょっと目瞑れ」
「バカ、こんなに暗いのに!」
もう屋上だから平気だよ、と目の前に手をかざされる。渋々目を閉じて、手をひかれるままゆっくりと歩く。
「ゆっくり、もうちょい……ストップ! もう目開けていいぜ」
そうして、まぶたを開ける。
「わあ…!」
月明かりのない夜。空に星は多くない。けれど、流れる星はよく見えた。
「そっか。今日、流星群!」
「ああ」
綺麗だろ、と言った快斗の横顔にキュンとする。これを見せるため、わざわざ寒い思いをして連れてきてくれたのだ。
「…ありがとう、快斗」
「おう」
気にするなと言わないところが快斗らしい。二人で、空を眺める。
「でもさ、快斗?」
こんなに綺麗だから、思ったことがある。
「どうして青子誘わなかったの?」
「……はあ? 何で青子が出てくんだよ」
だって青子のこと好きなんでしょ、と言うのは返事が怖いばっかりに聞けなかった。やっぱり、意中の子を誘うのは快斗でも恥ずかしいのか。
「こんなに綺麗だから。青子にも見せてあげたいなあって」
慌てて言い繕うと、私をじっと見て何かを考えてから、快斗は視線を空へ戻して言った。
「アイツは来ねえんだとよ。誘ったけど断られたぜ」
「そっか…」
本人が言っていたのなら仕方がない。だけど家が近い私の方が先に、その話を聞きたかったと思うのは、我が侭だろうか。青子は親友なのに、快斗と二人きりで嬉しいと思うのは狡いだろうか。
「ひなさ、雪もあんま好きじゃねえだろ? だから、星ならどうかと思ってよ」
「え…?」
「これ、星が降るって言わねえ?」
輝きながらあとをひく流れ星たちより快斗の笑顔に見とれてしまっていたなんて、絶対に言えなかった。



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