終いには



一介の女子高生に飛行機の操縦を預けるなんて、キッドも無茶をしすぎだ。経験があるからと言ってコナン君がやっては確かに変だけど。…というか、どうしてコナン君に経験があるのか知らないけど。
「いいか…そう、そのまま…」
蘭ちゃんの後ろで真っ直ぐ前を見て指示を出す新庄さん。子供たちもうまく追い払ったし、ここには私と園子ちゃんしか残っていない。
「見えてきた!」
コナン君の言葉に窓の外を見る。座席に座っているとあまり見えないけど、確かに埠頭らしきものは見えた。
「でも……」
「暗すぎない…?」
遠目からもわかるほど、明かりが少ない。高速道路があるぶん多少はあるが、肝心の滑走路となる場所が真っ暗なのだ。
「……」
ちらりと新庄さんがこちらを見た。嫌な予感がして、慌てて顔を逸らす。
「…っと、じゃあなんかヤベーみてえなんで、俺は先に降りるぜ」
パチンとあるボタンを押して、蘭ちゃんから離れる。コックピットを出ようとしたところで、さりげなくウインクしていくことも忘れない。
「ちょっと…! ひな、追って!」
「ええ!?」
安定していない機内でキッドを追いかけるのかと思うと、それだけで気分が悪くなる。だけど、蘭ちゃんは真剣な顔をしているし。乗客は救わなければいけないし。
「…待ってて!」
シートベルトを外して客席に駆け込んだ。
「よー、ひな」
「ようじゃないわよ! なんで途中で投げ出すの? 蘭ちゃんにわかるはずないじゃない!」
緊急脱出用のドアを開けているせいか、吹き込んでくる風が強い。ドアのふちに手をかけて、キッドは飛び降りるタイミングを図っているようだ。
「大丈夫。オメーは俺が助けてやっから」
「…何が大丈夫よ」
「……ひな。俺と一緒に飛び降りるつもりはねえか?」
「な、なんでそんな…」
急に真剣な顔になった快斗がいて、思わず腰が引ける。
「あの姉ちゃんなら大丈夫だろうが、万が一ってこともある」
「何それ……私だけ逃げろって言うの!? バカじゃないの!」
第一、キッドと接触したことがあるとは誰にも言ったことがない。もし一緒に飛んでいるところを誰かに見られたらたまったものじゃない。
「…悪い。そうだな」
怖くてドアには近付けないし、キッドなら私に連れ戻せるはずもない。無意味に飛び降りることだけはないと思うけれど。
「あとでな、ひな。グッドラック!」
ウインクをひとつ残して、キッドは飛び降りた。視界からはためくマントが消えると、さすがにぺたりと座り込んでしまう。
「もう、…何なのよ!」
立ち上がって園子ちゃんたちに伝えなければと思うのに、頭がくらくらしてきて立ち上がれない。なんとか肘掛けに縋りながら立ち上がるけど、そのまま座席に座り込んでしまった。
「ああ…もう…」
薄れゆく意識の中で、コックピットの方から「滑走路だ!」という声が聞こえた気がした。



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