約束だけ



黒羽快斗は、二代目怪盗キッドだった。初代は快斗のお父さん、黒羽盗一。
快斗がキッドになったのは、お父さんの隠し部屋に入ったのがキッカケ。その頃復活したと言われて世間を騒がせていたのは、お父さんの付き人で寺井さんという人。その人から、色々と聞いて決意したらしい。怪盗キッドのあとを継ぐと。
お父さんは、ビッグジュエルを探していた。ある組織から守るために。その組織はパンドラと呼ばれており、不老不死を求めているらしい。そしてお父さんは、パンドラに殺された。快斗はキッドになって、お父さんの仇を捕まえようとしていた。同時にビッグジュエルを探し、宝石ばかりを狙う怪盗になった。だから、違うものなら返すし、人は決して傷付けない。彼なりの信念の下、キッドは日々盗んでいたとか。
「隠してたことは、こんだけだ」
「……そっか」
話が大きすぎてあまりに衝撃的で、そう返すのがやっとだった。お父さんが事故で亡くなって悲しかっただろうに、それが本当は殺人だったと知った快斗の心境は、どんなものだっただろう。寺井さんが偽者のキッドを演じていたと、実の父親が泥棒だったと知ったときの心境は? 私には何もわからない。ただ、ひとりで悲しくて、苦しくて、悔しかったはずだ。快斗は、ひとりで…寺井さんはいたけれど、それでも、ひとりで、ずっと堪えてきたのだ。
「ひなならいい」
「え?」
「通報してもいいし、好きにすればいい」
麦茶をあおって、真っ直ぐに私を見つめる。どうして、そんなことが言えるのだろう。どうして、そんなことを言うのだろう。
「俺はどうなってもいい覚悟でオメーに話したから」
私は、快斗に何ひとつ話していないのに。彼はそれだけの覚悟で、命すらかかっている秘密を打ち明けてくれた。
「……しないよ、何も」
どうして、私が快斗を裏切るだろう。
「誰にも言わない。絶対に」
私だって、決めてきたことがある。絶対に他言しないこと、警察に突き出すのは以ての外。そして何より、私自身がこの事実を受け入れるということ。
「話してくれてありがとう。すごく嬉しかった」
「お、おう……」
快斗は戸惑ったように頷いた。
「…いいのか? 俺は泥棒なんだぜ」
「何それ。捕まりたいの?」
「いや、まさか」
「なら、いいでしょ」
その代わり。
「その代わり、キッドの仕事をするときは全部教えて。詳しくじゃなくていいの、仕事があるよってことだけ」
「なん、で」
快斗、私は快斗がキッドを止めるまで側にいるつもりなんだ。今まで快斗がそうしてくれたように。これからは、私が。
「無事に、帰ってきてほしいから」
本当はあなたが好きだから、なんてことは口が裂けても言えないわけで。



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