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「行かなければ、死ぬわけでもないでしょう。心配なら行かなければいい、それだけです」

麻衣を睨みながらも、言葉ははっきりと私に向けられていた。そう言われればそうだけれど、おばあちゃんが楽しみにしている手前断りづらい。

「ごめんね、ひな。コイツってこういう奴だからさ」

「所長をコイツ呼ばわりか」

申し訳なさそうな麻衣に首を横に振った。渋谷さんの言うとおりだし、麻衣に紹介されてきた訳でもない。謝られる理由はない。

「すみません、お手間かけました。それじゃあ、しつれ……」

「こんにちは…あら、失礼。お取り込み中、ですの?」

まさに腰を浮かせかけた時、事務所のドアが開いて新しい人物が入ってきた。立ち上がり損ねて振り返ると、同い年くらいの女の子が、着物を着て立っていた。どこかで見たことがあるような、と首をひねってすぐにわかる。

「あなた……霊媒師の、原真砂子!?」

「ええ、そうですわ。あなたは…?」

頷いた真砂子は、不思議そうに、渋谷さんたちを見回す。その様子から、女性たちとも顔見知りなのだと判断できる。ということは、彼らはここの従業員だったりするのだろうか。

「浅野ひなって言います。渋谷さんに依頼に来たんですが、断られてしまって。これから帰るので、どーぞお気になさらず」

有名人を見られてラッキー、と思ってがっかりした気持ちを誤魔化していると、真砂子が小さく眉を寄せた。

「それ…一体何ですの?」

視線は、あたしの肩より少し後ろ。何もないけれど、と首を傾げると、渋谷さんがどういうことかと厳しく訊ねる。真砂子は目を閉じて考え込むと、ゆっくり言葉を紡いだ。

「とても言い辛いのですけれど……そうですわね、言うならば、ヨクナイモノ、ですわ」

その場の空気が、ぴりりとしたものになる。ヨクナイモノ、と言われては自分自身、恐怖を感じる。

「……どうするのよ、ナル」

麻衣の低い声に、小さな溜め息が聞こえた気がした。

「浅野さん、お引き受けします」

「……は、はい?」

どうやら180度、方針転換をしたらしい。渋谷さんが腰を落ち着け直すように言い、そして麻衣に、おかわりを要求していた。



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