hole−3


「穴、とはどんなもので?」

「斜面にぽっかり空いてて、かなり奥まで続いてるトンネルみたいな感じです。狭いですけど」

人ひとり通るのがやっとだ。幸いにも、突き当たりは少し広くなっているので方向転換できるけれど。

「入れますか?」

棚田を抜けて、意外と斜面が急な足元に注意を促す。渋谷さんの問いにはイエスと答える。

「でも、渋谷さんのかっこじゃ汚れますよ」

なにせ太一でさえ四つんばいに這って進まなければならないのだ。細身とはいえ、身長のある渋谷さんにはきっと酷だろう。
ここです、と言って、申し訳程度に生えている草をかき分ける。入り口からすぐに下に落ちているが、あれはあまり高さがなく、むしろ穴自体は、進むうちに山の斜面を上っているような気にさえなる。

「暗いですね。それに広い」

「入るときは、家の懐中電灯持ち込みます」

「突き当たりは?」

「あります。よくわからないけど、石だか岩だかにぶつかって先に進めません」

中に入ったらわかることだけれど、これも言っておかなければならないだろう。

「あと、突き当たりの少し手前で、道がわかれてるんです。進行方向の左手に」

穴の通路が先にできて、あとからついでのように作られた通路のようだった。比較的狭く、今度はほとんどスペースがない。

「ただ、こちらは長いので最後まで行ったことはありません」

いつもの穴を往復する時間をかけてもどこへもたどり着かなかった。さすがの太一とあたしも諦めて、そちらの道へは行かないと約束したのだ。

「麻衣」

所長の声に、麻衣は気怠げに返事をする。話を聞かずとも、何をすべきかわかったようだ。

「ひな、中見たいんだけど…」

「いいよ。……一緒に行く?」

「お願い!」

ぱん、と顔の前で両手を合わせて拝まれる。渋谷さんは人使いが荒いなあと思いつつ、滅多なことは言うものじゃないと口を閉じて頷いた。



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