arrive−1


鬼の嫁こになるもんは、えろう別嬪な娘だそうな。










「あ、そこ左に入ってください」

「っと、狭えな」

車のハンドルをきって、ぼーさんが目を眇める。確かに、このワゴン、そして後からついてきているリンさんのワゴンには些か狭い山道。

「あとは真っ直ぐです」

ナビがひと段落して、助手席に背中を預けた。
八月十四日。朝の七時に荷物を抱えて、SPRの事務所前に集合した。渋谷さんの助手であるリンさんのワゴンには主に機材が積まれ、二人以外は、我が家から拝借してきた、ぼーさんが運転するワゴンに乗り込むことになった。
そして東京を出てから四時間弱、やっと山が見えてきた。ぐるりと山に囲まれた神火紙村に入るには、この細い山道しか道がない。閉ざされているようではあるが、存外、片道二時間かかる市内との交流もある。

「ひな、太一くん寝てるけど?」

「……ごめん。起こして」

「はぁい」

麻衣が後ろの席で、ジョンさんと一緒に荷物に埋もれているあたしの弟の肩を揺らす。長いとはいえ、他人様の車で寝るなんて。

「すみません、うちの弟が」

「いやなに、気にすんな」

ぼーさんが笑う。軽そうな見た目に反して、どうやら彼は面倒見がいい。リンさんとぼーさんが年長組らしいからかもしれないけれど、渋谷さんとリンさんがちょっと怖そうなので、フレンドリーな人はありがたい。

「…もうつくの?」

「うん。もうすぐだって」

早起きしたから目蓋が重たいのだろう。太一が目をこすりながら腕を伸ばした。

「にしても、辺鄙なところねぇ」

綾子さんが山の様子を見ながら呆れたように言う。確かに、そう言われても仕方がない。

「あ、ほら。見えてきましたよ」

暗い陰を抜けて出たスペースの先には、太い木で組まれた門と、かすれかけた墨で書かれた村の名前。神火紙村、とかろうじて読めるそれに、「うわっ」と唸ったのは誰だったか。
大きくはないが、車がすれ違うくらいはできる舗装されていない道を走り、祖母の家まで案内した。



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