寄り道厳禁


発端はいつものように翼だった。
「暇ならサッカーしようよ」
受験生の竜也が暇なはずないのに、亮や克朗に仕事がないからと調子にのったのが悪かった。
…もっとも、それに乗った俺も悪かったかもしれないけど。



「我が家って、つくづくフォワードがいないよね」
夏帆の言葉には誰も反対できない。だって事実だし。
キーパー、ディフェンス、ミッドフィルターに至っては三人もいる。
小学生のときはサッカーをしてた夏帆もディフェンスだったはず。
「まあいいじゃん。柾輝来れないって」
携帯をぱたんと折り畳んだ翼は、相変わらずだ。面白ければいいという精神が、関西人に近いと思う。誰に似たんだろう。
「一馬は来るってさ」
人数調節もあるからと一馬を呼んだ。
結人にも声をかけたかったけど、今日はバイトだからと断られてしまった。
それにしても、フォワード一人か。いくら三対三とはいえ……どう、なんだろうか。
「へー。なんか一馬くん久しぶりだね」
俺が小学生のときから一馬や結人を家に呼んでるから、夏帆や翼ともよく遊んだ。
確かに、高校や大学に入ってから夏帆たちが一馬に会う機会は減ったかもしれない。
ボールを持って早く行くよと急かす翼を見て、たまには童心に帰るのもいいかとあとを追った。



「……で、ほとんどフットサルだな」
近所の公園で一馬と合流し、サッカーをしていたら竜也の友人だという藤村が来たり、竜也の後輩だという不破がなぜかいたり、人数が増えてきたのだ。
時々夏帆も混ざってプレイしている。
「帰ったらまず風呂だな」
ため息をつきながらも、楽しいからやめる気にはなれない。
「あ!」
夏帆が急に大きな声を出して公園の外へ走り出す。
迷彩柄のキャップをかぶった男子と話をしている。さっきから公園の中を気にしている様子だったけど。
「ねぇ!功刀くんもいい?」
「カズきたの?ポジションキーパーじゃなくてもいいならね!」
翼が夏帆に叫び返す。どうやら夏帆や翼の友人のようだ。はじめて見る顔だから、高校の友達だろうな。
「…いかにもお使いの途中っぽいけど」
「気にせんとよ」
見慣れたスーパーの袋に目を留めると、功刀はさっぱり言い切って、荷物を日陰のベンチに置いた。
帽子のつばを後ろにまわすと、試合に乱入する。
「お、不破センセの後輩やん!」
「功刀ってキーパーじゃなかったか?」
「俺はオールラウンダーやけん」
藤村や竜也に小突かれながら走る功刀は、とてもキーパーの動きには見えない。
結人もいたらもっと楽しかったのに、と思った。



昼ご飯もすっぽかして、気がつけば夕方だった。
時計を見た藤村や一馬が慌てて帰ったのでやっとお開きになったのだ。
「いい線いってる」
功刀の肩をぽんと叩くと目を丸くされる。
いくら夏帆の兄弟とはいえ、いきなり話しかけられるとは思わなかったらしい。
「ほんと、カズってフォワードでもいけるじゃん」
「功刀くんさすがー!」
翼や夏帆と並ぶと、本当に高校生らしい。
けど、ひとつ心配なことがある。
「それ、平気?」
ベンチの袋を指さすと、慌てて中身を確認する。盗まれてはいないと思うけど。
「ああ、早く帰らなきゃだよね」
「……やらかした」
功刀の言葉に夏帆が首を傾げる。
「アイス買っちゅうん忘れとったい!」
ガリガリ君のやけに平らな袋を見て、翼が吹き出す。つられて亮や俺も。
「悲惨!あはは!」
翼はツボに入ったのか、腹を抱えている。克朗や竜也まで笑いを堪えている。
額の汗をぬぐうと、ガリガリ君をスーパーの袋に戻した。
「はあ……」
「ど、どんまい!」
夏帆の声援に苦笑いすると、功刀はそれじゃ、と挨拶を残した。
今更気付いたけど、あいつビーサンでやってたのか。さすがに指の皮むけたんじゃないか。
まあそれは本人の問題だからいいんだけど……結論から言えば、功刀って夏帆のこと好きだよな。だって夏帆に声かけられるまで、翼がいても興味なさそうだったし。
いや、俺に関係ないけど。


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