転校生がやってきた


「というわけで、みんなわからないことは教えてやるように」
なんてベタな紹介なんだろう、と思いながら黒板にかかれた名前と、この学校の制服じゃない真っ黒な学ランに身を包む少年を見比べる。
「功刀一、…カズでよか。よろしゅう」
生まれて初めて聞く博多弁は、小柄ながら随分と攻撃的な転校生の挨拶だった。どんな声か想像していたけど、予想外に落ち着いて、力強い声だった。
「とりあえず一番後ろに座れ。…って、功刀視力平気か?」
「大丈夫です」
なんとなくイントネーションの違う、けれども淀みのない敬語だった。
……ておい、ちょっと待て。一番後ろって、そんなベタな。
「じゃ、あそこ。夏帆、手ェあげてやれ」
私の後ろじゃないか!?
「あそこだが、わからないことがあったり見えなかったら周りに言うんだぞ」
功刀君は無言で頷くと、教壇に置いていた大きなエナメルを背負って通路を歩いてきた。転校生とは思えない堂々とした態度に、挨拶することさえ忘れていた。
「ここでよかね?」
確認するように訊ねられ、一瞬誰に対して言っているのかわからなかったけど、すぐに私のことだと気がついた。
「あ、うん。そう」
やっぱり無言で、でもはっきりと会釈をして功刀君は席についた。
……いやあの、これ後ろにいても存在感がハンパないんですけど。功刀君後ろにいるだけでなんか背筋伸びちゃうんですけど。



家に帰ったら翼に転校生が来たことを自慢しようと思ってたけど、まさかもっと先に話題になるなんて。
「功刀君、何か部活入るの?」
「……サッカー部。あらんや?」
「サッカー?サッカーしてるんだ!うちの弟…っても双子なんだけどね。弟もサッカー部だよ」
10分休み、寝る体勢をとりかけた功刀君に話しかけたのがきっかけだった。
功刀君って、つり目だし雰囲気ハンパないし、ちょっと怖いかと思ってた。でも弟…翼がサッカーやってるって聞いたときは、体を起こして興味深そうにした。
「今日やっとうか」
「部活してるかってこと?」
「おう」
「やってるはずだよ。…何なら案内しようか?」
馴れないイントネーションや言葉には少々つらいものがあるけど、これで功刀君がサッカー部に入ったら翼や竜也もいるし、ただのクラスメートより仲良くなれるかも。
「いや、場所わかればよか」
「あ、…そっか。グラウンドだけど、行き方わかる?中庭ぐるって回るんだけど」
ちょっとガッカリする。そうだよね…。
「中庭?…ああ。突っ切れん?」
「それができないんだよね」
不便だよー、と笑うと、功刀君は少し考えてから口を開いた。
「ちかっぱ案内ば頼めんか。道は大ざっぱにしかわからんよって」
何ともすっぱりさっぱりした態度だと思う。
「あ。うん、わかった。じゃあ放課後ね」
おう、と言って机に突っ伏した功刀君を見て、ポジションはどこなんだろうと考えた。翼と同じディフェンスかな?まあフォワードっぽい気もするけど。


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