油断大敵?

アイリスは、酒に強いわけではない。むしろ、人よりは弱いほうだろう。

「ねえ、アイリス。ほんとにお酒だめなの? ちょっとも?」
「ちょっとなら平気なんだが…すぐ眠くなってしまうから」
夜の11時半。お客はすでにいない時間で、ティファが若干酔っ払いながらアイリスに愚痴をこぼしている。
「ほーんと、クラウドってばなんでも背負い込んじゃって…アイリスがなにか言ってよ」
「クラウドって、言ってきくタイプじゃないだろう、意外と」
「そーなの。変にそういうところがあるのよ…って、だからアイリスに頼んでるんじゃない」
「んー…そう言われても…」
アイリスが苦笑していると、ティファが立って、すーといなくなると、グラスを二つ持って現れた。一つをアイリスの前に置き、一つは自分の前に置いた。
「……ティファ? これは私に酒を飲めと?」
「んー。いいじゃない、ちょっとくらいなら」
「…はあ。ティファ、早く寝ないと」
できるだけ飲みたくないのか、アイリスは立ち上がってティファに近寄った。アイリス自身が眠いようで、あくびをかみ殺している。
「というか、私が寝たい。ティファ、頼むから部屋に帰ろう」
アイリスがそう言った途端、ティファはテーブルに突っ伏してくうくうと寝息を立て始めてしまった。
「てぃ、ティファ…? ここで寝たのか? 私は運べないぞ…」
そっとティファに触れてみたが、やはり眠ってしまったようで、アイリスは右往左往した。アイリスはすごく小柄なので、子供くらいしか運べないのだ。むしろ運ばれるほうが専門なのだ。主にクラウドに。
「…クラウド、待つか」
まだ仕事から戻っていないクラウドを待ち、仕事疲れのところ悪いがティファを部屋まで運んでもらおうと思い、アイリスはまたティファの前に腰かけた。そして、クラウドを待っているうちにアイリス自身の瞼も重くなってきて、日付が変わって少ししたころ、アイリスも眠ってしまった。



今日も遅くなってしまったな、と思いながらそっと扉を開く。
ほんのりと明かりのついているテーブルがあり、そこでティファとアイリスが眠っていた。クラウドは、呆れながら二人に近づいた。
「アイリス、ティファ……」
声をかけてみるが、起きるはずもなく。仕方がないとため息をつくと、まずはティファを抱えて部屋に運んだ。一瞬、部屋に入ることをためらうが、寝かせるだけなら別にいいだろうと思いティファの部屋に入り、ティファをベッドに寝かせて布団をかけてやる。そしてまた下に降りて、今度はアイリスを抱える。ちなみに、この順番にはクラウドの色々な感情が関係している。ほぼ無意識なのだが。
「……軽いな」
いつも思うことなのだが、アイリスは軽いというか、軽すぎるのではないかと思う。アイリスにそう言うと、顔を真っ赤にしてそっぽを向かれるし、他の人に言うと呆れた表情をされる。
アイリスは本当に小柄で、抱きくるむとすっぽりと腕の中におさまってしまう。それでいて抱き心地がよく、安心する。
クラウドはそんなことを考えている自分に気付いて頭を振ると、ティファと同じようにアイリスを部屋まで運び、ベッドに寝かせた。布団を掛けて立ち去ろうとすると、わずかな抵抗を感じて振り返る。
見ると、アイリスがクラウドの服の袖をつかんでいた。アイリスは眠っているから、無意識なのだろう。軽く振りはらっただけで外せてしまえそうだ。
「……アイリス?」
本当に寝ているのか、クラウドはアイリスに声をかけた。返ってきたのは、アイリスの寝息だった。
クラウドはこのまま振り払うのは…と思い、ベッドのわきに腰かけた。そっとアイリスの髪の毛をすくと、さらさらと指通りがよくやわらかい感じがした。
このままここで寝るわけにもいかないし、かと言って起きていても心の中のいろいろなものと闘わねばならず、どちらにしても苦労が待っているようだった。
「…無防備すぎるから、かえって何もできないんだよな」
クラウドはため息をつくと、できるだけアイリスのほうを見ないようにして別のことを考えるように努めた。



翌朝。
アイリスが目覚めると、なぜかベッドの中にいて、不思議に思いながら身を起こすと、ベッドのわきにクラウドが座っていて、うとうとと舟をこいでいた。
「クラウド……? 寝ちゃったのか、私…」
昨日の夜クラウドを待っていたのに、なんという体たらくかとアイリスは眉をひそめた。
「クラウド、起きてるか?」
「………アイリス? …ああ、起きたのか」
クラウドがアイリスを見ながらあくびをかみ殺した。
「昨日はすまん。運んでくれたんだろう?」
「ああ…大したことじゃない」
「……もしかして、私、クラウドに何か言ったか?」
「何か…? 特になにも言ってなかったが…どうかしたのか?」
「いや…夜中ずっとクラウドを部屋に引きとどめてたんなら悪いなと思って…」
クラウドはやっぱり寝てたのか、と思い苦笑すると、アイリスのほほにそっと触れて、キスをした。
きょとんとしているアイリスをよそに、クラウドはそのままは貪るようなキスをした。
「!!」
いつものように軽く触れるだけのキスだと思っていたアイリスは驚いてクラウドを押しのけようとしたが、男の力にかなうわけもなく頭と腰をしっかりと固定されてしまった。小柄なアイリスはクラウドの腕にすっぽりと包みこまれている。
息苦しさを伝えようとクラウドの体をたたくが、それでもクラウドは止めない。ちょっとさすが死ぬ――と思ったところで、やっとクラウドの唇が離れた。
アイリスは顔を真っ赤にして息を切らせながらクラウドを凝視した。吐息がかかるほど近くで、クラウドが囁いた。

「無防備なところを見せられて何もしなかったんだ。これくらいの権利はあるだろ?」

クラウドは不敵に笑うと、アイリスの額にキスを落とすと立ち上がってそのまま部屋を出て行った。
アイリスはそっと唇に触れると顔を真っ赤にさせたまま固まっていた。
「……そうか、クラウドも男だったんだな…」
いままでそういうことはされていなかったからわからなかったが、一晩中アイリスの側にいて何もしなかったのなら確かにそれは男としては死にたくなるかもしれない。というか、よく何もしなかったと思う。他の男ではこうはいかないだろう。だからこそアイリスはクラウドの前でも無防備に眠ることができていたのだが。


「困ったな…これじゃあクラウドの前でも寝られないじゃないか」


そう言ったアイリスのほほは、わずかに緩んでいた。



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