手紙

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Dear.親愛なる友人へ

久しぶり、元気でやっているか?
…うーん、何だかありきたりだな。まあ、息災であれば何よりだ。
そうだ、晴れて念願の1stになれたんだってな。おめでとう。
こちらは変わりないよ。ただ、お前が手紙を一つもよこさないから、おばさんはひどく心配していた。短くてもいいんだから、面倒がらずに書いてやれ。
ところで、例の花売りの女の子とはどうだ?
お前が言うくらいだから、きっとすごく可愛いんだろう。会ってみたいな。ああでも、恋愛に疎いからお前じゃ迷惑かけそうだな。悲しませるようなことはするなよ。でなきゃ私が、喝わ入れに行くからな?
そういえば、この前送ってくれた花、とても綺麗に咲いているよ。けど、大事に育ててはいるんだが、やっぱり日持ちしないな。良かったら、また送ってくれ。
神羅の連中とは上手くやっているか?
私にはよくわからないが、何かあっても無理はするなよ。気負いしないのが、お前のいいどころなんだから。……ただし、リラックスも程ほどに、な。
ミッドガルは暗いイメージがあるが、ちゃんと空は見えているか?
人の活気はあるか?
息抜きがしたくなったら、またこっちへ戻って来い。星が見たくなったら、また一緒に見よう。おばさんと、美味しいものでも用意しておくから。…そうだ、花売りの女の子もぜひ連れてきてくれ。
それじゃあな、ザックス。体には気をつけて。

From.アイリス

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この手紙が届いたとき、セフィロスたちにものすごくからかわれたのを覚えている。いくら幼馴染だといってもまるで聞く耳持たず、さらにエアリスのことまで書いてあったので、二股かと疑われてしまった。何とか誤解は解けたが、しばらくはそれでからかわれた。
エアリスに会った時、この手紙を見せたらエアリスもアイリスに会いたいといった。エアリスは、俺たちの故郷に咲いている花の種を送ってほしいと言っていた。あそこもあまり花が咲いていないが、今度アイリスに頼んでみようと思った。
ふとした拍子で仲良くなった神羅兵の一人にもこの手紙を見せた。するとそいつも、アイリスに会ってみたいと言った。俺に関しての心配ばかりだから、そいつにさえもっとしっかりした手紙を書いてやれと言われてしまった。

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Dear.アイリス

手紙ありがとう。
手紙っつっても、何書けばいいかわかんないんだよなあ。友達にも言われたんだけどさ、やっぱ苦手だな。
そうそう、エアリスも一度アイリスに会いたいって言ってたぞ。花、大切にしてくれてありがとう、とも。あ、それからさ、エアリスに頼まれたんだけど、そっちの花の種を今度送ってほしい。俺も久しぶりにそっちの花が見たいから、俺からもよろしく頼む。
それから、神羅兵のクラウドって奴も、アイリスに興味持ってたぜ。俺のこと心配してくれて、文面が兄妹みたいだなって言われたよ。もちろん、セフィロスたちにはからかわれた。なんとか分かってくれたみたいだけど、…うーん、どうだろうな。セフィロスたちもアイリスに会いたいって言ってたな。人気者だな、アイリスは。ミッドガルに来ることがあれば、みんなを紹介させてくれ。いい奴ばかりだからさ。
もう書くことが思いつかないな。
とりあえず、俺は元気だよ。アイリスも元気でな。あ、それからお袋にもよろしく。

From.ザックス

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それが、最期にアイツから届いた手紙だった。昔から、字を書くより声で伝える方が好きだった彼のことだ、手紙を書くのは本当に苦手だったのだろう。当時は携帯電話も持っておらず、こうして長々とした手紙を綴っては、何通かに一通、短い返事があった。
これに対した返事を出してからしばらく。何ヶ月も返事はなかった。その時は忙しくて手紙が書けないだけだと思っていたけれど、半年も、一年も過ぎると不安が募ってきた。決意した二十歳の頃、単身ミッドガルへ行き、エアリスに出会って知った。彼女にも確証はなかった。けれど私同様に手紙が来なくなり、姿を見なくなり、それっきりだったという。信じているつもりだったが、やはりどこかでわかっていた。
大切な人を失う喪失感。それは初めての感情で、どうしようもなくやるせない気持ちになったことを覚えている。
最後に声を聞いたのはいつだったかと考える。…きっと、しょうもない別れを告げられたときだろうな。
ザックスはミッドガルへ発つ前日にうちへ来た。その前からミッドガルへ行くとは聞いていたが、日程があまりにも急すぎて涙も出なかった。むしろ笑えてきたほどだ。
何と言われたんだったかな。「手紙送るよ」だったか? …いや、それはない。「うんと強くなって、いつか任務で来てやるからな」かな。どちらも果たしてくれたけれど、何か違うような気がする。まあ、うんと強かったかは別の話だが。
後にクラウドと会ったとき感じた違和感は、すぐに分かった。限りなくザックスに近く、しかし決して同じではない立ち居振る舞い。
しかしそれも、昔の話だ。
いまはもう、ザックスはいない。大好きだった、兄のような存在。そして、そんなザックスが好きだったエアリスももういない。私を実の妹のように大事にしてくれた存在。
大切な人を二度も失って、二度と大切な人はできないと思っていた。手に入れたぬくもりを手放すことが怖かった。けれど私には仲間がいた。それが、なによりの救いだった。
いまはもういない人も多いけれど、私にはたくさんの仲間がいる。未来がある。
「アイリス」
名前を呼ばれて振り返ると、扉の側にクラウドが立っていた。
いま、もっとも大切な人。ザックスやエアリスに抱いていた感情とは似て非なるもの。一生をかけて側にいたい、そう思えた人だ。
ザックスからの手紙をそっと仕舞うと立ち上がって、クラウドの側へ行く。この手紙はまだ、エアリス以外に見せたことはない。
待っていてくれたクラウドは、私の手をとった。……あたたかい。
部屋の扉を閉めると同時に、想い出も閉じ込めた。今はとても幸せだ。だから、過去に浸り続ける必要はどこにもない。
…ああ、そうだ、思い出した。アイツの最後の言葉は、たとえ空耳でもいい。あの時確かに、聞こえたんだ。
「幸せになれよ」と。



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