心霊現象
確かに、言われてみれば、いつもより様子がおかしかった。
屋敷に入った彼女の様子を見ておかしくないと思えるものがおかしいくらいに。
「アイリス、無理するな」
「い、いや…大丈夫だ…」
クラウドの気遣う声に、アイリスは手で制しながら言ったが、明らかに大丈夫ではなさそうな様子だ。
もともと白い肌はさらに白く、もはや、青白く、紅い小さな唇は紫に近かった。小刻みに震えている。
「アイリス、上で待ってたら?」
エアリスがアイリスを気遣って声をかけたが、アイリスは首を左右に振っただけだった。その動作で、背に吊った刀が揺れた。
ここは、神羅屋敷―――
十数分前、地上―――ニブルヘイムでは、誰がクラウドと一緒に神羅屋敷に行くか、という話をしていた。
クラウドは自分とアイリス、エアリスを連れて行くといった。
そして、3人は他の人を地上に残し、こうして屋敷の中へ来た。
屋敷の中は、実験室のようになっており、見つけた地下への階段は、地下の様子がひどい有様であることを語っていた。
時々、壁が崩れたりなどもあったが、無事、地下の探索をしている。
本来なら、屋敷に詳しいヴィンセントを連れてくるべきだが、戦力、魔法力などの関係で、ともに来ることはなかった。というか、クラウドの独断と偏見による采配の元、誰も文句を言うこともできずに流れでそうなってしまったのだった。
だが―――
かたっ
かた かたっ
ポルターガイスト…心霊現象と呼ばれるものが、この屋敷内では盛んだった。
物が動くのは序の口、扉は自動ドア、歩けば何かが落ちてくる。
その度に、アイリスの体は小さく震え、肌はより一層白くなった。否、蒼白くなった。
はじめは、クラウドもエアリスも意外な一面を見つけたな、と思っていたが、いくらなんでもこれはひどいなと思い始めた。
「だから、戻ればいいといったんだ」
「だ、だが、来てしまったんだ…」
先ほどから、クラウドやエアリスが地上に戻ることを進め、アイリスがそれを拒むという会話が続いていた。
アイリスは頑なに拒み続け、どんどん進むうちに屋敷の奥まで来てしまっていた。
奥は、地下であるから日の光が届かず、冷気が立ち込めている。
「っ……」
アイリスは戦いが起こっても邪魔にならぬよう、クラウドではなくエアリスの服のすそをつかんでいた。(揺れるエアリスの髪に時々驚いているが。)
実際、じゃあ上戻ればいいのにという声が聞こえてきそうだが、スルーだ! と本人は強気でいたいらしい。
屋敷の中である。敵は出てこないものだと思っていた。
が、
見事敵と遭遇。侮っていた。
ここでエンカウントとは、逆に難しい。
よりにもよって、実験台となった、化け物と呼ばれるようになってしまったモノだった。
「ちっ」
クラウドは小さく舌打ちをして、自身の武器、バスターソードを手にした。
エアリスはもちろん、アイリスも鞘に手を掛けた―――のだが。
アイリスはなぜかその場から動かない。
「アイリスっ!」
クラウドが叫び、エアリスが息を呑んだ。
そして、敵の攻撃が襲い掛かろうとしたところ―――
ブンッ、ゴッ
それは、アイリスが武器―――自身の太刀を、鞘から抜刀せず敵のこめかみへ当てた音だった。
見事、クリーンヒット。
太刀があたった敵は、どう、とアイリスのほうをむいて前のめりに倒れた。
「「……」」
クラウドとエアリスは、アイリスのしたことに驚いていた。
しかしこれで、敵は全て倒したことになる。さっきの敵以外はクラウドとエアリスが片付けたし、元々そんなに多くはなかった。
へたっ
突然、アイリスが地面に座り込んだ。
「アイリス!」
慌ててクラウドとエアリスが駆けつけると、アイリスは俯いて一言。
「すまない。腰が、ぬけた」
結局、その後はクラウドがアイリスをおぶって屋敷から出てきた。アイリスの太刀は、エアリスが持って出てきた。
それをからかったユフィやシドは、しばらく口を利いてもらえなかったとかなんとか。
ティファは何か言いたげにしていたが、なんだかクラウドが嬉しそうに見えたので、何も言わずにクラウドを睨んでいた。
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