流星群

草木も眠る時刻、クラウドは誰かに揺り起こされた。
「…眠い」
本能に正直に従い、自分を覚醒させた人物に不平を言うと、容赦なく髪をガシガシとかき回された。
「ほら、起きろ」
誰かと思って(若干不機嫌に)ベッドから体を起こすと、クラウドの顔を覗き込むアイリスがいた。
「アイリス?」
寝惚け半分、驚き半分でその名を呼ぶ。
「クラウド、外、行こう」
なぜこの時刻に外なのかわからぬまま、アイリスに手を引かれ小高い丘を目指す。
歩きながら、時折欠伸をかみ殺してはアイリスにどこへ行くのか尋ね、はぐらかされた。
冷えた空気で頭も覚醒しようかというとき、丘が見えた。



丘のてっぺんに着くと、
「あっ、遅かったね、クラウド」
「来ないかと思ったよ」
ティファやエアリス、バレットや他の面々がそろっていた。
いったい何事かと、アイリスを振り返り訊ねようとした。
「アイリス、これは―――」
「ほら、空を見ろ」
クラウドの言葉を遮って、アイリスが空を仰ぐ。
アイリスの髪がさらりとゆれて、つられてクラウドも闇夜を見上げる。
「な………?」
なにか、と問おうとしてそれを見た。


流星群


空を、数え切れない星が流れた。
煌々と瞬く、ミッドガルでは決して見ることのできない景色に、クラウドもアイリスも、他のみんなも言葉を失くし、しばし見つめ呆けていた。
やがて、小さな呟きと共に感嘆が口をついて出た。
「すっご…」
「綺麗だね」
「あ、願い事! マテリアがたくさん……」
みな、思い思いにこの美しい景色を堪能していた。
「綺麗だな」
クラウドは誰ともなくつぶやいた。
「ああ、綺麗だ」
それに呼応して、アイリスが返事をした。
クラウドの声もアイリスの声も、輝く星の煌めきにかき消されてしまいそうだった。


しばらくはみな、空を見上げていたが、言葉なく丘から、一人二人と去っていった。
丘にはアイリスとクラウド、そして二人の頭上でまだ流れ続けている星が残された。
「きて、よかっただろ?」
アイリスが、空を仰いだまま語りかけた。少しだけ、微笑んでいるように見える。
「……ああ」
眠気も覚めて、クラウドは素直に流星の美しさに見惚れていた。そして、わざわざ起こして連れて来てくれたアイリスに、感謝した。
「クラウドは、何か願い事したのか?」
「いや…」
アイリスが、思い出したようにクラウドに訊ねる。
これだけの流れ星の大群なのだ。願い事が一つくらいは叶うだろう。現に願い事を口にしている様子も見られた。
だが、クラウドはいま思い至ったというようにして、少しだけ残念そうに顔を顰めた。
「アイリスは、したのか?」
「ああ」
「どんな、願い事なんだ?」
「………………」
問われて、アイリスは少しだけ黙って、空から視線をはずした。
アイリスは俯いて、小さな声で言った。

「クラウドと、みんなとずっと、一緒にいられるように」

そういって、恥ずかしそうに微笑んだ。
普段は見られないような、照れくさそうで、可愛らしい笑顔だった。
「そうか……俺も、しておけばよかったな。願い事」
「いいんじゃないか?」
「何がだ?」
アイリスは小さな拳を口に当ててくすくすと可笑しそうに、目を細めて、けれど自信に満ちた声で言った。
「だって、私と同じようなものだろう?」
得意げに、クラウドの顔を覗き込み(身長差から、普通にしていてもこうなるのだが)、無邪気な顔で微笑む。
クラウドは少しだけ頬を染め、アイリスの瞳から視線をそらし、空を見上げた。
実際、間違ってはいないので、クラウドは否定しなかった。
「……ああ」
流星群は流れるのをやめ、煌々と輝く星たちを残して静かな夜を作っていた。



丘の上、二人の上を、流れ星が一つ、流れていった。



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