While;Advnet Children

「アイリス!」
ミッドガルの中心部でのろのろと愛車を走らせていると、神羅が建設中とかいう慰霊碑のある方角から誰かに名前を呼ばれてブレーキをかけた。
「ああ――レノか」
「久しぶりだぞ、と」
ここ最近めっきり見かけていなかった赤毛が気がつけば隣にいた。レノがいるということは、相方もいるのだろう。案の定、少し離れたところにはルードが立っていた。
「どうかしたのか? 仕事の依頼なら、ティファかクラウドを…」
「違うんだぞ、と」
「……なら、何を?」
神羅から配達以外の依頼とは珍しい。
「ちょーっと人探しをしててな、見かけたら教えて…」
「他をあたってくれ。うちは探偵じゃない」
最近、こういう態度がクラウドに似てきたとティファに言われたな。
「その探偵を探してほしいんだぞ、と」
「……切羽詰まってるな」
今日の仕事は一段落したし、仮にも常連を無碍にするわけにもいかないかと思い直した。
「名前と顔は?」
「助かる。名前はエヴァン・タウンゼント、写真はない。ただ――」
「ただ?」
「少しばかり、社長に似てるぞ」
「……わかった」
つまり、名前以外はあてにはならないな。



「ただい……あれ?」
セブンスヘブンに戻ると、いつもそこにいるはずのティファがカウンターにいなかった。幸いなことに、今は客足もない。

 プルル……

二階から電話の音が聞こえた。たぶんデンゼルは寝込んでいて、マリンが看病しているのだろう。クラウドは、こんな時間帯にいたら大問題だ。
「…出るか」
他に選択肢はないのだが、二階にあがって受話器をとった。
「こちらストライフ・デリバリー・サービス。当社は……」
『ああ、さっき電話したエヴァンだが』
……エヴァン? まさか、レノが探していると言っていたエヴァン・タウンゼントか?
『デンゼルにかけ直すよう言われたんだが……ああ、デンゼルは?』
「体調を崩してる」
『俺もだ』
「で、依頼か?」
与太話に付き合っている暇はないので、問答無用で切り捨てる。エヴァンの話を聞いてから、レノに連絡するか決めることにしよう。
『いや、かけ直すように言われただけだ』
「…エヴァン、悪いが最初から説明してくれ」
私に接客は向いていないな、と思った。






 プルル……

10分ほど前にデンゼルから連絡があり、急いでミッドガルに向かっている途中電話が鳴った。走っているときはあまり出ないようにしているのだが、名前を見て気が変わった。
「――はい」
『ああ、クラウド?』
「アイリス…どうしたんだ?」
彼女の仕事は一段落したはずだと思っているとしばしの間があって、アイリスの申し訳なさそうな声がした。
『さっき、デンゼルから依頼の話を聞いただろ? 依頼人が、急いでほしいと』
「ああ。わかった」
気が短い依頼人だな、とこっそりため息をつく。フェンリルのスピードを少し上げる。すでに法外速度で爆走しているが。
「マリンとデンゼルは?」
さっきはデンゼルから電話があったのだがと思い訊ねると、アイリスがやはり少し間をおいた。
『……今は寝ている。体調も、悪くはなさそうだ』
「そうか」
ふと、目前に迫ったミッドガルを見てアイリスに会いたくなる。最近、理由もなくアイリスに会いたいと思うようになった。マリンやデンゼル、ティファたちと暮らすようになって依存体質にでもなったのだろうか。

『―――クラウド?』

アイリスの声で我に返る。依頼人…エヴァンの指定した場所へは、あと五分もしないだろう。
「ああ」
『…………』
「……アイリス?」
『あー、いや、うん。すまない、何でもない』
アイリスが何か言葉を呑み込んだのがわかったが、あえて何も追求しないことにした。帰ってからきけばいい。
「わかった。――急いで帰る」
『え?』
しまった。考えていたことが口に出ていたようだ。
『…帰ってこなくていいぞ?』
「…は?」
さすがに目が点になる。
『ああ、ごめん。そういう意味じゃなくて……そう、あれだ。急がなくていいから、無事に帰ってこい』
足りない言葉を補うように、アイリスは早口でまくしたてた。その様子が妙におかしくて、口元がゆるむ。
「ああ。それじゃ」
『うん』
通話を終了して携帯をしまう。帰ったらアイリスを抱き締めようと決意した。



「ただいま」
カランとドアベルを鳴らして夕方のセブンスヘブンに足を踏み入れる。
エヴァンの依頼を今日最後の仕事にしようと考えていたら、配達ではなくただ情報が知りたいだけだったようで予想よりはるかに早く切り上げることができた。
「あ、おかえり。早いんだね」
カウンターでグラスを磨くティファが出迎えてくれる。
「アイリスは?」
さすがにただいまの次にこれはどうかと自分でも思ったが、彼女を抱き締めたいと思った矢先だから仕方がない。
「上にいるわ」
ティファが苦笑しながら教えてくれる。肩をすくめて、客のいない店内を通り抜けてカウンターの奥の階段をあがった。途中、マリンとデンゼルの部屋をのぞくと二人は静かに眠っていた。
アイリスの部屋をノックしようと腕を上げると、ちょうど目の前のドアが開いて、アイリスが立っていた。
「アイリス」
「あ…おかえり、クラウド」
ただいまと返す時間さえ惜しくて抱き締めようと手を伸ばすと、アイリスから抱きついてきた。ぽすりと軽い衝撃。
「事後承諾だが…、抱きついてもいいか?」
少しくぐもったアイリスの声に、思わず笑みがこぼれる。
「――大歓迎だ」
そう言って抱き締めると、アイリスが小さく笑っているのがわかった。



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