眠れぬ夜の出会い

寝られない。
寝つけないんじゃなくて、寝られる環境がないのだ。

「ZzzzZZ」

部屋から大きな鼾と寝返りを打つ音が聞こえる。
そう、今まさにクラウドの部屋は泊まりで遊びに来たバレットらに占拠されている。なので、部屋の主は部屋に戻れずにいたのだ。
だから下で一晩中起きていようかとも思ったが、眠いには眠いので、寝られずにうとうとと舟をこぎながら階段に腰掛けていた。
静寂の闇の中、ぎしりと床板を踏む音が聞こえた。ふりかえって目をこらすと、漆黒の闇の中にはアンバランスな白髪が見えた。
「……………………」
アイリス、と声をかけようとしたが、どうやらアイリスはまだクラウドに気がついていないようだ。
そのままじっとアイリスを見ていた。
また、ぎしりと床板が音を立てた。
「……アイリス?」
大分近づいてきたところで、名を呼んでみる。さっと顔を上げ、クラウドのほうを見て安堵の表情を浮かべた。
「クラウドか……こんなところでどうした?」
「バレットたちが」
部屋のほうを見て言うと、納得したようにひとつ、頷いた。
白いワンピースの裾を揺らしながらクラウドに近づき、隣に腰掛けた。
「アイリスは?」
「んー……笑うなよ?」
「うん?」
しばし逡巡してから、アイリスはクラウドにいった。クラウドは曖昧な返事を返してアイリスを見た。
「眠るのが、怖かったんだ」
アイリスは、ぽつり、と言った。
「怖い?」
クラウドが問うと、アイリスはそう、といって頷いた。そしてそれからまたしばらく黙って俯いていた。
「アイリス?」
クラウドが声をかけた。
「……エアリスの、夢を見たんだ」
「ああ……」
「急に怖くなった。夢だってわかっていても、怖かったんだ」
「ああ」
アイリスがエアリスの夢、といったらひとつだ。
あの時――空から降りてきたセフィロスの刃に貫かれた彼女が、アイリスの目に焼きついて、離れないという。
アイリスはしばしば、そんな夢を見てはクラウドやティファを起こした。子供じゃあるまいしと最初は思ったが、エアリスとアイリスの、本当の姉妹のような仲のよさを知っているから、何もいえなかった。
「ティファの部屋にはユフィがいるだろう? クラウドの部屋もうまってしまっているから、仕方なくここへ来た」
「…そうか」
アイリスは二人…それどころか全員に気をつかったから、誰を訪ねることもできずに眠れなかったのだろう。
二人はしばらく無言で座っていた。
と、クラウドが欠伸をかみ殺した。
「…眠いのか?」
「ああ…」
さきほどそう言ったような気もしたが、何かを考えるのが面倒くさくなった。頭が、働かない。
「部屋は…駄目か」
「ああ…」
もう一度欠伸をかみ殺して、クラウドはアイリスを見た。薄闇の中でぼんやりと光っているように見えた。
アイリスはちらりとクラウドを見て、クラウドと視線をばったりあわせるとすぐに逸らして前を向いた。
「……来るか?」
「……え?」
アイリスが小さく呟いたが、クラウドにはよく聞き取れなかった。
「殺風景だが、ベッドも椅子もあるし。なにより、五月蝿くはないだろうから………って、聞いてるか、クラウド? 寝てないか?」
「ああ。起きてる……アイリスの、部屋か」
それは思いつかなかったと、自分に言い聞かせているのかアイリスに確認しているのかわからなかったけれど、落ちそうになる瞼と格闘しながらアイリスを見ると、頬をほんのりと染め、ているように見えた。
クラウドは少し考える仕草を見せると、頷いていった。
「悪いな」
「…構わない」
アイリスはどことなくほっとしているように見えた。眠くて眠くて、クラウドにはもう判断のしようがなかったのだけれど。
「ほら、じゃあ立て。ベッドは譲るから、とりあえず寝るといい」
「いや、俺は椅子で…」
「いいから、ほら、ふらふらしてるぞ」
クラウドは、この時間帯でなぜアイリスは眠くないのだと問いかけたくなったが、結局そのための体力がもったいなくて聞けなかった。
先に立って歩くアイリスの少し嬉しそうな顔を見て、とても愛おしく思った。



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