▼真 白 に 埋 め た き み の ×× ×

俺、潮江文次郎は語る。先日また天女が突然現れた。素足を出してどうして奴等はこうも痴女なんだ。今度の天女もまた変な妖術を使えるのだろうか、それとも一番最初の天女の様にいい人ぶって俺達を裏切るのだろうか。そうなる前に消してしまおうと思った。だが、俺が駆けつけた時には下級生や上級生が既に何人か集まっていたので断念した。流石に下級生の前で血塗れにはなりたくない。あいつ等はまだ知らなくていいのだ。いつか知るのに隠そうとするのは俺のただの傲慢だ。読心術を心得る俺達六年と五年の成績優秀者は天女が現れた際にもう騙されることがないよう心を読むことにした。どうせこの女も嬉しいだとか愛されたい、仙蔵かっこいい豆腐美形とかそんなんだろうと思ったが違かった。帰りたい、その言葉が俺の胸に響いた。恐怖とかを含んだ言葉じゃない。まるで俺達に興味がないようなもっと違う次元をこいつは見ているのか。その後に俺を変態扱いするとはどんだけ神経図太いんだこの女ぁあああ!10キロ算盤を投げようとしたら笑いを堪えた仙蔵に制止された。落ち着け俺、こんなどこにでもいそうな女に何を言われても忍として動じてはならん!無表情で居た女は下級生と目が合うと愛想笑いを浮かべ両手を上げた。これは自分は無害だという意なのだろう。先生方に拘束され学園長先生の襖に行く間も女は下級生と目が合えば笑っていた。


名は名字名前だそうだ。2週間の監禁生活の間も名字が弱音を吐くことは一度もなかった。天女に対してこのようなことをするのは初めてだったが衣食住を保障され何不自由ない生活を与えてもらいながらも最初の天女を除いて、こちらの冷たい態度に皆、涙を流していた。小平太も仙蔵も性格か天女と相性が悪いのか妖術に必ずかかっていた。本人曰くそれにかかると天女がいないと生きていけない錯覚に陥るらしい。俺も三番目の天女が来て初めてかかりあいつ等が言っていた事を理解した。まるで麻薬のようだった。その一時だけ俺は忍びなど忘れ少年になったようだ。顔に似合わないことを言っているのは百も承知だ。だが目が覚めた時の下級生達の怯え傷ついた顔はもう二度と見たくない。それは俺も同じだ、だけど仙蔵や小平太がやっていることは間違っている無害の女に拳を振るってどうする?帰れと言っても来方もわからんのにどうしろと言うんだ。二人だけじゃない天女に恨みのあるものは皆そうした。長次や竹谷のように関わりたくないと言うものもいた俺はそれが正解だと思う。先生方は名字になんの害がない事を分かっていながらも部屋に閉じ込めた。日に日に増える怪我にも見て見ぬ振りをして「どうされたんですか?」と惚けて聞くのだ。ああ、これが忍なのか?名字も正直に話すわけでもなく「お洒落です」と返す。新野先生が親身になって手当する姿を見て俺も申し訳なくなった。同室を止めることもできなんだ。見かねた留三郎が六年で名字を変わるがわる監視することを提案した。これで毎夜暴行を受けることはなくなるだろう、まあ、仙蔵と小平太に当たった日は微妙だか五年も俺達が見張っとればこれないだろうから一安心だ。留三郎は天女の妖術にかかっても特に普段と変わらなかったらしいただ、やべぇヤりてぇという衝動に駆られたそうだ。これは伊作が言っていた。伊作もかかったのだがこいつはキモかった。天女様の泣き顔がそそるだとか骨格はどうだ、血は甘いのかとかあまりのキモさに俺達の妖術が解けたこともある。勿論、天女もどんびいていた。アホのは組らしい。それに救われる日が来るとは思ってもみなかったがな。


「今日の監視は仙蔵か」

「まったく迷惑な女だ。早く天に召されて欲しいぐらいだ」

「...仙蔵あの女が一般人だと気づいているんだろう?楽しいか?無抵抗な女を痛めつけて」

「文次郎どうゆう意味だ?」

「お前がしている事は只の八つ当たりだと言っているんだ」

「あの女を庇うのか?もしや、文次郎...」

「俺は至って普通だおかしいのはお前だ仙蔵」


会計委員の仕事が残っているため仙蔵がなにか話していたが俺は聞かずに部屋を出た。仙蔵は冷静な男なのだ、きっとここまで言えば明日には落ち着いているだろう。もし、俺が妖術にかけられてると勘違いしていたら大変な事になりかねないな。一応帳簿付けが終わったら名字の部屋を覗いておくか。


「私のどこがおかしいというんだ!」

「こーゆうことじゃない?てか苦しいんだけど」

「貴様とゆう奴は私のやさしさがわからないのか!私が少し力を加えれば貴様なんぞ瞬殺だぞ」

「優しい人は人の首しめないからね!」


え?なにこいつら漫才やってるの?人が少し言い過ぎたかとかもんもんと考えながらいつもより早く算盤叩いてきてやればイチャつてんじゃねぇよ!DVやってんのかお前らわ!つか、仙蔵!お前それもう監視じゃねーだろうが!屋根裏から様子を伺えば仙蔵に名字が押し倒され首をしめられていた。理由は俺への八つ当たりだった。あれ?天女達のじゃなくて?名字の上から退いた仙蔵は床をバシバシ叩いて「ギンギンギンうるさいのを我慢して寝てやってるというのに文次郎め。覚えていろ寝ている横で春画を朗読してやる」と言ってやがるし名字はそれに対して「思い立ったら即行動だと思うよ部屋帰れ」など言いおってぇ!!折角人が庇ってやったというのにこの女という奴は!!てか、お前ら仲良しじゃねーか!なんなの!?俺の心配返せちくしょー!よし深く考えるのはやめにしよう。早く部屋戻って寝る。


名字は監禁生活から解かれると食堂の手伝い、雑務を任された。校庭に全生徒が集められ学園長先生がおっしゃったことだ。誰も文句は言わなかった。本人は凄く嫌そうな顔をしていたがな。変化と言えば伊作が名字に懐いている。留三郎曰く褒められて調子にのっているそうだ。嬉車の術じゃないかと思ったがあいつにそんな脳はないか。俺が思うに言葉のすれ違いが生じたに違いない。食堂や洗濯などをしているうちに名字は忍たまやくのたまと嫌でも話すことになりサバサバした性格が知れ渡ったことで敵意識を持つやつは減っていった。下級生はもうオープンで名字に懐いている。「名字 さーん!名字さーん! 」と追いかけられているのをよく見るあと「名字 !今日とゆう今日は許さん!」と焙烙火矢を片手に持った仙蔵に追いかけられているのもみるな。どんな減らず口をたたいたことやら。
監禁から解かれても俺達の監視はつづいた。そんなある日、小松田さんと共に表門を掃除していた名字が一人になった際、門に近づきドアを叩いたので俺は咄嗟に苦無を態と外すように投げた。見事に名字の横に刺さり俺は姿を表す。逃走しようとも無駄だと伝えたかったのだが名字はもとから出る気などなかったらしい。監視を見破るために演技をしたのか。どうやら馬鹿ではないようだ。


『君は此処の最高学年らしいから言っとくけど君達が私を疑っているように私だって君達を信じちゃいない。何か期待をしているようだけど私は君達が望む答えはださないよ。』


笑っていうセリフじゃないだろう。お前が本当は笑いたいわけじゃないことくらい分かる。なんでお前は前の天女のように我儘を言わないんだ!泣いて、縋って、俺達を愛してると言っていれば仙蔵だって小平太だってお前を嫌いになれるんだ。絆ができてしまうことがもう俺たちには怖いんだよ。嘘でもいいから俺達を信じると言ってくれ。そして俺達を裏切らないと虎若に答えた事を言ってくれよ。バカタレ。

仙蔵が憎しみから親しみに心変わりしていたのには気づいた、小平太が妖術にかかることを怯えているのにも知っていた、鉢屋が天女の言葉によって傷ついたのを名字に当たってそれを 不破が心配しているのも分かっていたんだ。他にも俺は知っているのに見て見ぬふりをしてきたのだ。これじゃあまるであの時の先生方じゃないか。自嘲気味に笑えば名字に「キ文次」と言われたので頭をこずいておいた。手加減をしたつもりだったのだが相当痛かったらしく頭を押さえ込んでいた。仙蔵はもう手加減に慣れたのだろうか。今度聞いてみるか。



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