▼嗚 呼 、 傷 す ら 受 け 入 れ ぬ 蒼 白 い 沈 黙

私、鉢屋三郎は昨晩のことであの女を一人の人間として見始めた。新しい天女が現れ、名字名前だと雷蔵から名前を聞いた時、私の中でどうやって復讐をしてやろうかと考えていた。私は天女が嫌いだった。いや、嫌いになりたかった訳ではない嫌いになるしかなかったのだ。最初の天女はとてもいい人だった。私たちが怪我をすれば持ち前の知識で手当してくれたり食べたことない料理を作ってくれたりと女性的で働き者で皆から愛されていた。そう、何故その時気づけなかったのだろうか愛されることが彼女達の目的だったのだと。私はその事に二番目の天女を天に返してから気づいた。皆は言う、最初の天女は良かったと。だけどそれは違う、じゃあ何故彼女は突然姿を消した?それは皆から愛されたいと言う彼女の願望が叶ったからだ。段々と天女達は自分の力だけでは愛されない事がわかると妖術を使い始めた。愛情と言うのは時に狂気に変わる、それが相手に向くか周りに向くかだ。五年は周りに向いてしまった。お互い苦楽を共にし合った仲なのに傷つけあった。雷蔵と兵助だけは妖術にかかる事はなく被害を受けただけだ。お前たちにわかるか?パッと出の女の妖術にかかり仲間を傷つけ罵倒し目を覚ますと傷だらけで倒れている姿を見たわたし達の気持ちがお前にわかるのか?いくら妖術にかかっていたとは言え仲間に傷つけられたあいつらの苦しみがお前たちにわかるのか?それでもあいつらは笑うんだ目を覚ましてくれてよかったと笑うんだ。不思議だった何故、雷蔵や兵助が妖術にかからないのか。千の顔を持つと言われる変装の名人の私でさえ、かかったのにだ。人間観察はズバ抜けているし、忍術だってもう一人前の忍びレベルの私が何故かかる?六年の先輩で1人妖術にかかった事のない人が居たので訪ねてみた。中在家先輩は妖術にかかった腹心の友を見て言った。優しいのだ、酷く。私は分かってしまった。何故、雷蔵が妖術にかからないのか、それは私が時に雷蔵から感じる恐怖のようなものだからだ。雷蔵は優しい、けどもし仲間が傷つけば誰であろうと迷わず殺すだろう。ある任務で人攫いから人質を解放するものがあった、勿論、野盗共は直ぐに殺した、そして雷蔵は私にまだ手を出されていない子供達をまかせると自分は此処で一旦この子達を落ち着かせると提案してきた。私は落ち着かせるもなにも、この子達はもう目が虚ろで生気すら感じられないじゃないか、野盗に犯され傷ついた女子の心など治癒することができるのか?でも、優しい雷蔵ならできるのだろうなそう考え意見をのんだ。任された子供達を全員親元に返し戻ると返り血をあび佇む雷蔵が居た。敵か?どうした?と雷蔵に聞くといつも通りの優しい顔をして殺したんだ、あの子達と言うのだ。野盗の基地だった小屋に入れば血の海だった。私は震えたよ、これが現実なのかと疑うくらいに。私が聞く前に雷蔵は私の肩を掴んで説明してきた。この子達は親元に返しても親が傷つくだけだから殺した、と。じゃあ、未だに子供の帰りを待っている親達はどうするんだ言おうとした言葉は死んだ一人の女の子のやすらかな顔が目に入って飲み込んだ。
もし野盗との子供がいたら、犯された事を親にしられたら、親を苦しませること、それは彼女達にとって死ぬよりも辛いことだったのだ。彼らが私達を酷く優しいと言うのなら、彼らは優しい、それはもう畏怖するほどに。
兵助や他の妖術にかかってないやつらにも何かしらの繋がりがあるのだろうだけどこれは私の胸の内に秘めとくことにした。
下級生がかからないのはまだ人を殺めたことがないからだろう。心にできた闇ほど対処しようがないものはない。
天女は自分の能力に気づいているものもいれば気づいていないものもいた。 名字の場合は能力がない、それか天女として現れたわけではないのだろう。
好かれようとも嫌われようともせず息苦しそうに生活している名字に少々同情する場面もあったが、憎しみの方が勝っていた。いつ、雷蔵をまた傷つけてしまうのかという不安もあった。
昨晩の七松先輩との作戦はあの暴君から持ちかけてきた話だった。
あまり聞きたくない話だったがそれは七松先輩が名字の本性を暴こうと犯そうとしようとした物だった。なんでこの人はこう獣みたいな発想しちゃうかなほんとにもっとほかに方法浮かばなかったんですかと聞けば前までの天女はこれでわかったんだと威張ってきた。尻軽すぎだろ天女。
人の性行為の話を何故聞かねばならんのだ、まったく。名字は全否定の上に七松先輩に抵抗までしたそうだ、勿論本人はなんの害も受けていない。それで、どうしたんですか、とため息を交えて聞くと体中に傷があったそうだ。最初はあまりにも抵抗されるから興奮しちゃってほんとに犯そうとしたらしいが服を肌蹴させると背中に酷い痣や縄のようなもので打たれた跡があったらしい、それがさらに欲情をそそいだそうだがあまりにも哀れに見えて逃がしたらしい。それもそれでひどい話だ。これが普通の町娘だったのなら抱きしめて、お前は綺麗だとでも言ってやれるのにな。獣の目をした七松先輩は「そこでだ鉢屋、あの傷跡の多くは尾浜勘右衛門のものだった」と探りをいれてきた。いや、この人はそんなつもりないだろうこの先あの女をどうするつもりだかこの作戦によって決めるつもりだ。勘右衛門が天女を嫌いなのは知っていたがまさかそこまで鬼畜な奴だったとは、私達が考えたのは2つ、一つは勘右衛門の事が好きでほかの男に目もくれずただただあいつの暴力を受け入れているのか。もう一つ目は誰になにもいう事もできずただただこの狭い箱庭で怯え暮らしているのかだ。
後者は考えられなかった、最近あの女はくのたまから気に入られているし下級生からも懐かれている、小松田さんや伊作先輩からも心配されるようになってきているし学園長先生も彼女を守る体制になってきている。いくらでも告げ口をして怪我を負わしたやつらに罰を与えることぐらい簡単なことだろう。立花先輩や潮江先輩なんかも警戒しながら名前を受け入れてきている。七松先輩はそれを察して誰にもバレないように決行しようと言うのだろう。私はただ、生意気な口を叩くあの女を驚かすことができるなんて楽しそうな話だと思っただけなんだ。傷つけようなんて、ほんとにあの時、思ってなかったんだよ。






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