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ぐちゃっと嫌な音がした。自分が最も愛した人間を刺したんだと気づくのに時間がかかった。おかしいよね。僕は君を殺すつもりで抱きついて背中にナイフを振りかざしたのに。それでも僕を力強く抱きしめてくれるこの子が大好きだ。

「ねぇ、痛いでしょ?次は心臓めがけて刺しちゃうかもしれないのにどうして離れないの?」

首を横に振って僕の胸板に顔を埋める。嘘つきだなぁ。痛いに決まってるのに。痛くしたんだから。

「百、蘭が抱きしめて、くれたから」

「そんなの名前を刺すためにだよ」

「それでも、嬉しかったの」

「僕は吐き気がするくらい嫌だったけどね」

僕も嘘つきだ、僕だって君を抱きしめられてうれしい、この手を離さないでいてくれることも本当は凄く嬉しいん。だけど、体も心も傷つける。泣いて、泣いて、僕に笑いかけなくなって。

「服、汚れちゃうね」

震える声で彼女はそっと僕の背に回して居た手を離す。背中に刺したナイフを抜くと苦痛に顔を歪めた名前の顔を見て僕の顔からも笑みは消える。
ごめんね。痛かったよね。こんな事本当はしたくないんだよ?君を傷つけたくなんかないんだよ。好きなんだ。どの世界のパラレールワールドにも君は居たけど僕には名前じゃなきゃ駄目なんだ。
君の血ならいくらついても構わないよ。君のためならどんなに汚れたっていいんだから、そう簡単に手を離さないで、離れていく手を止めようと腕を動かそうとする自分を必死に抑える。
微かに残った君の温もりが僕の意思を揺るがす。

「さような、ら」

いかないで、行かないで、どこにも行かないで!
止められない、これから僕がする事に名前は絶対邪魔になるんだ。僕ね知ってたよ。君が僕の事を好きだって、だって僕も君が好きだからね。見てれば分かるんだよ。あぁ、期待してくれてるんだって。僕もそうだったから。でもね、僕と君の違いは悪者と、脇役A。脇役には大イベントな窮地もないし最大限に悪い事をするための意思も必要ないだろ?だけど悪者には必要なんだよ、弱点なんてあっちゃいけないし、ましてや他人の事を考えるような軟い心なんていらないのさ。
もしもだよ、この先脇役Aと悪者がくっ付いたとしよう。悪者は脇役が人質に取られる度弱くなるんだ。脇役が小さなことで幸せそうに笑うと凄く苦しくなって悪者ではいられなくなってしまうんだよ。

ほら、僕の眼から流れてはいけないものが伝う。
こんなんじゃ僕は悪者になれないよ、笑おう、笑うんだ。「あ、っは、はははははははっ!!」笑えば笑うほど僕の頬に伝うモノ。やっと悪者になったんだよ。僕はこれで物語を動かすキーマンだ。

君よりも世界征服を選択した中二病な僕

(白蘭さんはきっと)
(私を選ばなかった事を)
(後悔してくれる…)

だから、この背中の傷も痛みなんて感じないよ


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