あの人が私を頼ってくれたことは一度もない。新八君の姉のお妙さんや忍者のさっちゃん、まだ幼い神楽ちゃんに百華の月詠さんいろんな女の人には悩みを打ち明けたり一緒に難題を超えるのに私にはいつもへらへらして銀ちゃんが何処か遠くへ感じてしまう。
幼い頃から先生の元で一緒だったのに、攘夷戦争で背中を預け戦ったじゃない。途中で銀ちゃんが私を庇って怪我をした時、高杉に元々言われていたけど改めて男女の力の差を実感して私は戦争を降りみんなの帰りを待つことにした。でも、戦争後顔を出してくれたのは小太郎だけだった。小太郎もさ、俺はこの世界を正しく導くとか言って私を攘夷に勧誘するだけしてまたどっか行っちゃうしさ。ヤケになって江戸に来て生活してみればなんかこううまいこと自分の力を出せる仕事が見つかって友達もできた。仕事仲間のさっちゃん。ストーカーレベルの恋話を聞いているとなんだか凄い自分の知ってる人に似てるなあと思っていたらそうだった。銀ちゃんは何年ぶりかにあった私を見て凄く辛そうな顔をした。ひどいよ、そんなに私、銀ちゃんに嫌われてたんだと言えば「違う、オレは」とその続きを言わないまま抱きしめてきた。背中に回された腕が力強くて少し痛かった。しばらくして落ち着いたらしい銀ちゃんは昔のように死んだ目をしながら「名前ただいま」なんて今更ずるい言葉を言うんだ。帰ってきてないじゃん、まだずっと銀ちゃんは戦っているんだ。

自分から話を切り出すことも無理矢理ついていくこともできずに銀ちゃんはボロボロになっていく。剣の腕だってそこそこあるの知ってるよね?やっぱりあの時何が何でもみんなについていけばよかったのかなあ。そしたら別の未来があったのかな?

久方ぶりに再会した高杉に鬼兵隊に入るよう勧められたどころか強引に入隊させられそうになった。お前あんだけわたしのこと弱い乳なしチビとかコケにしてきたくせになんだ今更、随分友好的だなこわいわ!丁重にお断りして全力で逃げた。「必ず迎えに行く」とか恐ろしいこと言ってたけど聞かなかったふりだ。そんな波乱があった事を誰に聞いたか知らないが銀ちゃんは私を問い詰めてきた。何をされたとかお前はどうすんだとか何かあったら俺にいえ、いやもう、お前俺ん宅に住めなどとこの人は私をどうしたいんだ。


「わたし、銀ちゃん宅に住まないよ」

「お前高杉がどんだけ中二病かわかってんのか!あのヤロー今度はお前を縛ってでも鬼兵隊に入れるつもりだぞ!あわよくばあんなことやこんなことまで」

「そこまでするってことはそこまで私が必要ってことでしょ。いいわよ!捕まったのならあんなことやこんなことそんなことまでしてやるわよ!」

「バカ!お前それ高杉にいってねーだろーな!?」

「銀ちゃんは何の心配をしてるの?私の性行為事情?鬼兵隊に入ること?それともまだ高杉と喧嘩してるからって私を味方につけようとしてるの?」


会えて言うならば此処はスナックお登勢のカウンター席である。時間も中々賑わう時間でこの口論であるからして他所から見たら三角関係、つまり痴情のもつれのようになっている。お登勢さんは聞かないふりをしてくれている。タマちゃんは録音モードオンと言って普通に仕事をこなし、猫耳おばさんキャサリンは隠れるつもりもないらしくめちゃくちゃこっち見ている。私は銀ちゃんに酒を誘われてきたのだから飲む気満々で来て中々話を切り出さない銀ちゃんにイライラしてすぐに酒瓶一本は空になってしまった。誘ってきた等の本人はビール瓶半分で止まってしまっていた。


「あのなあ、オレはお前に普通に生きて欲しいの!玉の輿捕まえて、安定した生活を送って子供を産んで幸せになって欲しいんだよ」


ずるいよ、銀ちゃん。いつもみたいにヘラヘラ笑って言えばいいのにそんな真面目な顔しないでよ。優しく頭なんか撫でないでよ。今まで我慢してきた涙がポロポロ流れてきて必死に裾で拭うけど止まらない。銀ちゃんは私の泣き顔なんて私を庇って怪我した時以来だからどうしたらいいかとあわてふためいてる。お登勢さんは溜息をついてとうとう泣かせたねって銀ちゃんをこずいた。ばっちり聞いてましたねあなた。


「私の幸せを銀ちゃんが決めないでよ!幸せなんかじゃないよ、玉の輿のったってイケメンと結婚したって普通に働いてご飯食べて普通の女の子みたいにオシャレしたって嬉しい、楽しいって一瞬思うだけで長く続かないよ!銀ちゃんと高杉が喧嘩して小太郎が仲裁に入って辰馬が笑ってる、みんなが傷ついたりしても支え会って生きてた時が幸せだったよ!銀ちゃんは私が見ず知らずの人と付き合って結婚してもなんとも思わないの?」

「お前が選んで好きな奴なら相当のクズじゃねぇかぎり祝うに決まってんだろーが。高杉はダメだけどな。」

「いないよ、みんなより好きな人できないのにどうやって結婚すんだよ天パ!ほんといい加減にしろよちょっと表でろコラ!女の子に此処まで言わせておいてほんと、もうさあ!ハゲろ!」

「いや、お前それもう悪口...」


私は立ち上がり銀ちゃんの胸ぐらを掴む。高杉とかの話ししてないから!どうしてそうなるのよ!


「人のことばかりでさ!どうして私を頼ってくれないの?この腹の怪我はなんなのこれ!気づかないとでも思った?銀ちゃん怪我した時は隠そうとしてそこに手置く癖あるんだからね。私は弱いから?足手纏いになるからもう背中を預けてくれないの?私、強いよ。銀ちゃんには勝てないけど1日は粘ってられるからね」

「だから、お前にはもう刀を握って欲しくねぇんだよ。オレぁなお前が刀握って戦う時の苦しそうなツラなんて見たくねぇ。お前、自分がどんなツラして刀振ってたかわかってんのか?まるで自分が切られたみてぇな顔してんだよ。あんな顔お前に二度とさせねぇ。」

「急に女の子扱いしないでよ!なによ昔はブスだとか一杯行ってきたし一緒にお風呂だって入ったし寝たじゃん!」

「名前ちゃああああん!?銀さん今すごいかっこいいこと言ってたよね!?普通は頬赤くしちゃったりしてキュンてなるとこなんじゃないの!?大体あれは子供の頃だろーが!おっぱいもない毛も映えてないのに男も女もあるか!なに?お前今でも俺と風呂入れんの?」

「かっこいい理由付けて私を除け者にしたいだけでしょ!お風呂入れるよ!背中まで流したあげようか?」

「おーし、お前入れるっていったかんな!たとえ風呂場で何が起きようと銀さん知りませんから!ほら、そうと決まればさっそく」


銀ちゃんが私の手を掴んで何処かに連れてこうと立ち上がった所でお登勢さんストップがかかった。こんどはこずくとかじゃなくぶっ飛ばされていた。そんなこんなでいつのまにか私は酒瓶をもう一本空にしていた。


「銀ちゃん私が邪魔ならそう言ってよ。だいじょうぶだよちょっと本気で殴るかもしれないけど銀ちゃんに関わらないようにするからもう頼られたいなんて思わないから......zzz」

「ほら、あんたがちんたらしてるから寝ちまえったじゃないか」

「うっせぇババァ!!人の恋路に聴き耳立ててんじゃねぇよ!」

「じれったいんだよ、あんた達見てると。銀時、あんたどうせ自分じゃ幸せにできないから他所で幸せになってくれとでも思ってるんだろうけど女はねそんなこと望んじゃいないよ。幸せじゃなかろうと辛かろうと惚れた男の傍で生きれりゃそれでいいのさ」


優しさなんぞ消えてゆけ


知ってるさこいつはただ昔みたいに俺たちと馬鹿やってすごしたいことくらい。愛だの恋だの考えてないことだってわかってんだよ。お前が俺のそばにいたいって言うのは友情や家族に値する愛情からだろ、それは高杉やヅラにだって同じだろ。だからこそ下心を持っている自分が嫌になる。誰が好きな女に情けない姿なんて見せたいと思うんだよお前には包み込むようなあたたかい笑みでいってらっしゃいとおかえりを言って欲しいのさ。






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