僕の結婚はボスである沢田綱吉により勝手に決まって、彼女は自分の了承すらなく話が進んでいたそうだ。まあ、僕の場合は相談にきた草食動物を蔑ろにして仕事をしていただけなんだけどね。まさか、結婚の話を持ってこられるとは思ってもみなかった。それも笑顔が爽やかな山本武とか忠犬の獄寺隼人じゃなく僕に。女を取っ替え引っ替えしている六道の方がこう言った類の話はいいんじゃないか?それでも相手方の親は僕を選んできた。何か裏があるに違いないのは確かだった。


初めて顔を合わせたのは僕の仕事の所為で結婚前日になってしまった。沢田綱吉に凄い文句を言われたが正直乗り気でもないし、破談になってもそれはそれでいい。困るのは彼だ。
部屋につくと僕だけ中に入った。まさか一人で向こうの父親と娘を相手にさせられるとはね。沢田綱吉なりに怒っていたのだろう、無理矢理結婚させられる上に相手の顔もわからないなんてご令嬢が可哀想だと。沢田綱吉は彼女をパーティかなんかで知っていたかもしれないが僕は顔も性格も容姿もしらないのにどうきづかえと言うんだ。そんな難癖をつけていたが実際に会っても結婚するという実感などわかなかった。父親の話すことなど無視をして彼女だけを見た。身長も顔も容姿も普通。変に粧し込んでない分そこらのケバい金目当ての女よりマシだがこの父親に自分の意見すら言えない気の弱さは頂けない。今も自分の自己紹介すら父親に言わせてだんまりを決め込んでいるのだから僕にこの親父と結婚しろと?


「雲雀殿わたしの娘は気に入っていただけたでしょうか?」

「ねえ、うるさい」

「!」

「僕は彼女と話をしたいんだ、あなたの政治の話には興味ない」


そう言えば向こうのおやじは苦虫をすり潰した顔をして「おやおや、私としたことが失礼いたしました。では、若い2人にあとはお任せいたします」と足早に部屋を後にした。少し彼女に興味が湧いたのだ。この部屋に入って目線を交じ合わせてから一度も彼女は目線を逸らしたり俯いたりしないことに。


「僕は雲雀恭弥、先に言って置くけどこの婚姻に興味はない」

「初めまして名前と申します。この婚姻に私自信の気持ちはありませんので結構です。強いて言うならあなたが若くて整った顔立ちの方で安堵しているぐらいです」

「ワォ。僕も同じだ。君が顔も容姿も普通で安心したよ」

「雲雀様のような眉目秀麗なお方にそう言っていただけるとは光栄です」


この女なかなか言い返してくる。負けじと口を開いているといつの間にか気が合いあの親父が部屋に戻ってくるまで会話は続いていた。双方断る理由もなく縁談はちゃくちゃくと進んでいった。彼女に選ぶ権利もなく披露宴の日取も住む場所も僕の都合で合わせていった。名前は一緒にいるうちに堅っ苦しい敬語をとっていった。二人で住むようになると笑うようにもなった、どうして婚約を断らなかったんだと聞くと顔を見て断るつもりだったけどイケメンだったから何も言わなかったと正直に答えてきた。まあ、僕も一緒かもしれない。
動物が好きだと哲から聞いたのか犬や猫のぬいぐるみを渡してきた。僕が仕事に出かけて話し合い手もいないし部屋の掃除とかはお昼には終わっちゃうから夕方までの時間潰しに裁縫を覚えたらしい。ちょっと顔が崩れていたが手作り感があって愛らしくも思えた。二人暮らしといってもボンゴレの敷地内だから興味本意で彼女に会いにいくやつらは多い、なんせ僕の奥さんだからね。山本武の感想は全然普通で僕の好感度が上がったと言われた。君に好かれてもまったく嬉しくない。跳ね馬はいい嫁さんもらってほんとによかったなお前の趣味が普通で安心したと言われたから咬み殺しておいた。僕はどんなマニアックなやつだと思われていたんだ。そっちのが凄い気になるじゃないか。

そして彼女は意外にも心を開くと感情的な女性だった。彼女の父親からは結婚式当日に「あの子は無表情で感情をあまり出さない子だが素直で気配りのできる頭のいい子なんです」とつまり駒にするには充分だと勧めら嫌悪を抱いたがどうやらあのファミリーの前だけのようだ。
名前は僕が褒めれば喜ぶし、仕事が早く終わって帰って来れば嬉しがっていた。食欲がわかなく折角名前が作った夕食を食べなければ寂しそうにしていたし僕が怪我をして帰ってくれば泣いて「死なないでよかった」と抱きしめてくる。こんなに喜怒哀楽が彼女に備わっているのを君の親父は知らないんだろうね。
いつからか僕等は愛し合っていた。最初こそなんの感情もなかったが今ではお互いを失うことを恐れている。
結婚五年目で僕達に子供ができた。本当は子供を作る気はなく最善の注意を払いことに及んでいたのだが等々上から子孫繁栄のお達しがきたのだ。名前も子供を作る事を望もうとはしなかった。僕は最初に気づくべきだったのだ。あんなに沢田綱吉の赤ん坊を可愛がっていたじゃないか街に出れば小さい子に優しく接していて時折、公園で子供達と遊んではしゃいでいた子供好きなのにそれを言葉に出す事はなかったことに。感情的で家庭的な彼女が子供を欲しがらなかった訳を何故追求せずに言われるがままに自分の精を注いだのか。僕を好きで、本当は自分の子供を抱き上げ名前を呼びたかった彼女が拒める訳がないのだ。


医者にまず宣告されたのは中絶できる時だった。赤ん坊には申し訳ないが僕にとったら赤ん坊が生まれる事により君が死にその子を愛せるだろうかという不安と僕一人で子育ては無理だという心配のが優っていて出産は反対だった。それにね子供がもし大きくなってお母さんが死んだ理由に気づいた時のことを考えたことがあるかい?その子はきっとたくましくいい子に育つだろうそして自分の命の重さに苛まれ、自責の念に囚われるのだ。人が死ぬというのはそういうことなんだよ。そんなものを子供に背負わせる位なら僕がお腹の子の命を引き取って背負い続けたほうがマシさ。ねえ、最低な男だと言われても構わない。どんなに周りから蔑まされ様が君に嫌われたっていい、お願いだから頷いてよ。


全てを察した彼女は僕が一番似合っているといった着物を着て昔と変わらない真っ直ぐゆらがない意思をもった目で向き合い話すのだ。
ああ、君は綺麗な姿勢で畳に正座をするね。結婚する前はすぐに痺れて弱音を吐いていたのにさ。僕に合わせようと必死に日本の作法を学んでいた姿が愛おしかった、それを口に出すことはなかったけれど。


私、生まれつき循環器系の病気持ちだったの。どうせあまり長く生きられないからお父さんに結婚の話を出された時、家のためにそれぐらいやってやってもいいかなって思ったの。それに雲雀恭弥て名前を聞いて、孤高で弱者に興味のないあなたなら私の死なんてなんとも思わない人だろうから丁度いいやってさ。最低でしょ私。それなのに恭弥を好きになって呼吸が苦しくなっても眩暈を起こしてもセックスしてる時、心臓が締め付けられるぐらい辛くても言えなかったの。自分は健康だ、恭弥と生きるんだって言い聞かせて忘れようとしてた。分かっていたのがいつかあなたとの子供ができて出産する時バレて死ぬんだって事。上からの通達がきてそろそろ潮時かなと思って恭弥に言おうとしたけどやっぱり言えなかった。だって本当のこと言ったら恭弥は絶対に子供を作ろうとはしなかったでしょ。私を優先にしてくれた。でも上は愛人を作ってでも子孫を残すことを進めるわ。嫌だよそんなの。私、恭弥との赤ちゃん欲しい。名前を呼びたい抱きしめたい二人ともを愛したい。私は生まれてくる子供を抱き上げる事も成長する姿も見れないけれど、この子を堕ろしてまで生きたくない。きっと寂しい思いをさせるかもしれない、雲雀の言う通り生まれたことに責任を感じるかもしれないの、でもね、そしたらちゃんと伝えてお母さんはあなたを愛しているって。あなたを産んだのは母さんみたいに幸せを知ってもらいたかったんだよ愛する人に会って、その人と一杯喧嘩もして、一杯笑いあって、そしてその人と家族になることがどれだけ幸せか、知ってもらいたかったんだよって。これは、私の我儘になるけれど許して恭弥。


僕は君に嫌われてもいいと思っているくらい母体を優先にしたいけど名前の唯一のお願いを否定することはできない。初めてだね、名前が僕に頼みごとをするの。誰かが言ってたじゃないか人生は選択だと。なのに僕の奧さんにはその選択すらされなかった。唯一できた人生の選択が最後になるのに彼女は涙を溜めた目で笑っていた。


明日は愛をあげたい



母体の衰弱が激しくお産は予定より早く行われた。ボンゴレの医療は彼女に大部尽くしてくれた名前が望んでいた普通分娩を優先してくれ体力の心配もあったが無事に赤ちゃんは産まれることが出来た。産声を上げる自分の子供を見て僕はこの子を殺そうとしたんだという罪悪感と無事に産まれてきてくれて、がんばってくれてありがとうという気持ちが溢れかえった。彼女は声も出ないほど弱り果てながらも赤子を抱きしめ息を引き取った。母は強いね、助産師も医者も驚いていたよ。赤ん坊は直ぐに保育器に移った。そして僕はまだ温かさのある名前を抱きしめ産まれて初めて声を上げて泣いた。君の分もいやそれ以上に僕が君に死ぬまで注ぐはずだった愛情も含めあの子にあげるよ。





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