壁に背中を押し付けられ。

景吾の空色の瞳に、俺の顔が写る。

それぐらいの、至近距離。

次にしてくることなんて、もうわかっていて。

今だ慣れない独特の空気に若干の緊張を抱きつつ、受け入れようと瞼を閉じれば。



「キスしてみろ」




降ってきたのは、唇に感じる温かさではなく。

思わず目を見開いてしまうほどの爆弾発言だった。


















「は・・・はぁ?」

「聞こえなかったのか?お前からキス、・・・してみろよ」

にやりと口角を上げながら俺を見下ろす景吾。

「なんで・・・っ」

「あーん?いつも俺からじゃねぇか。ていうかお前からされたことねぇ」

「・・・ぅ・・・そうだけど」


だって、恥ずかしいだろ。
俺からキスするとか。
ただでさえ、受けるので精一杯なのに。

「ふん、できねぇのか?」

「な!」






そんな風に言われたら、俺のプライドが黙っていられるはずがない。
恥ずかしさを押し殺し、ごくんと生唾を飲み込んで決心した。

できねぇのかって?





「できるよ、キスくらい」

「ほぅ。言っておくが、頬じゃなくて唇だからな」

「っ・・・ゎ、わかってるよ!」

ゆっくりと両足の踵を上げ、グラつかないようバランスをとる。
あぁ・・・今の俺の姿、めちゃくちゃカッコ悪いじゃん。
女の人が背の高い相手にキスするときみたいだ。
俺、男なのに・・・ちくしょう。
でも、こうしなきゃ景吾の唇には届かなくて。
複雑な思いのまま、景吾の胸にそっと手を当て視線を合わす。

「早くしろ」

「・・・るさい」

しかし。
踵を上げても、まだほんの少しだけ届かなくて。
俺と景吾の身長差に苛立ちを覚えた。
ていうか。
キスしてみろって言う前まで、景吾は腰を折って俺と目線に合わせていたくせに。
今は普段通り背筋をピンと伸ばし、視線だけ俺を捕らえている。
景吾がその姿勢でいる限り、どんなに頑張っても俺からキスをするのは難しい、ていうか無理なんだけど。

「なんだよ、届かねぇのか?」

「・・・!?」

もしかして。
届かないと悪戦苦闘する俺を見て楽しんでる?

「くくっ、なんか足震えてるぜ?しゃがんでやろうか?」





―――・・・絶対そうだ。
この人、今の状況を心底楽しんでる。
あームカつく、本当ムカつく。
俺の気持ちも知らないで。





すると。
俺の目線のすぐ下にある氷帝の赤いネクタイを見て、良いことを思いついた。
いいもん、こうしてやる。
偉そうに見下して笑う景吾のネクタイをグイッと引き寄せ、限界まで踵を上げれば。


「・・・ッ!」


空色の瞳が再び近付いてきて。

景吾の唇に、自らの唇を思いっきりぶつけてやった。






俺から贈る初めてのキスは、痛みしか残らず・・・しかも一瞬で。

いつも景吾から受ける、脳まで蕩けるような甘く優しいキスとは正反対の、単純で乱暴なキスだった。







(・・・ってぇ、今のはなんだ!色気も何のあったもんじゃねぇ!!)

(うるさい、文句言うな!意地悪けーご!!)









...end.



●あとがき●
付き合ってまだ間もない頃かな。
タイトルの「24cm」は二人の身長差です(^^)♪
ここまで読んでくださってありがとうございましたVv

2012*0312