俺の恋人、
跡部景吾は凄く過保護だ。
―Episode.5



氷帝のレギュラー専用部室。
リョーマはベンチに座りながら、跡部が日誌を書き終わるのを待っていた。
何もすることがないと退屈そうな表情をしていると、ジローや岳人達が一緒に待っててやるとベンチに腰を降ろした。
そして自然に会話が始まる。
テニスは勿論、青学のことや、好きなテレビ、ゲームの話題で盛り上がっているといつの間にかラーメンの話になった。

「リョーマは何ラーメンが好き〜?」

「やっぱりトンコツっスかね」

「おぅ、わかってんじゃねぇか」

「宍戸さん、トンコツ大好きですよね。二人でダブルスの練習したあと、よく食べに行くんですよ」

「トンコツもえぇけど、塩も美味いんやで。シンプルやけどシンプルが故にダシが・・・「侑士の塩話は長くなるからストップ!!」・・・酷いわ岳人」

「あぁ〜〜〜ラーメン食べたい!!!ねぇ、食べに行こうよ!!!」


こうしてジローの提案により、氷帝レギュラー陣+リョーマは跡部の所有する車に乗り込んで宍戸と鳳がオススメだというトンコツラーメンの店へやってきた。
カウンター席が並ぶ店内。
自販機で食券を買い、積み重なったコップを一つ取り氷と水を入れて席に座る。

「チッ、なんでラーメンなんだよ」

真面目に日誌を書いている途中、突如ジローに「ラーメン行きたいから早く終わらせて」と急かされた跡部。
お前らだけで勝手に行けと言い返せば、リョーマもラケットバックを背負いだし、お前も行くのかと跡部は早々に日誌を書き上げたのだった。

「ったく・・・今頃はお前と二人で過ごしているはずだったのによ」

少々不機嫌な様子でリョーマの右隣に座った跡部は店員に食券を渡した。

「このあと一緒にいられるじゃん。それに俺もラーメン食べたかったんだよね」

リョーマも食券を渡しながら答える。
店内にトンコツスープ特有の濃厚な匂いが漂っており、リョーマは腹の中で低い音が鳴るのを感じた。

はぁ、お腹空いた。
今日の乾先輩のメニュー、キツかったからなな・・・。
早く食べたい。

慣れた手つきで調理をする店員の動きを見つめながら出来上がりを待つ。

「わぁ〜美味しそうだCー!!」

人数分のラーメンが目の前に並び、跡部を除くメンバーは目を輝かせて勢いよく食べ始めた。

「岳人、この特製にんにくダレを入れると更に美味いんだぜ」

「へぇー!次貸して!」

「リョーマにチャーシューちょっとあげるね〜♪はい、あーん!」

左隣に座るジローが小さめに切ったチャーシューをリョーマの口へ放り込む。
するとリョーマは身体をビクッと大きく反応させ、口元を押さえた。

「ぁっはッッ・・・!!」

「え!?」

「どうした!?」

縮こまったリョーマの背中に手を当てて跡部が覗き込む。

「ごめんっ熱かった!??」

「何したんだジロー!」

「え、ぁ、チャーシューあげようと思って口に入れたら・・・」

ジローの言葉に跡部はすぐさま近くにあったティッシュを取り、リョーマの口元に当て吐かせた。
そして冷たい水の入ったコップを差し出す。

「ほら、早く飲め」

「・・・ん」

舌と口内を冷やすようにゆっくりと飲み干し、コップを置く。

ビックリした。
・・・ッ・・・あー・・・舌が痛い。
じんじんする。

舌に指を当てているとジローがリョーマに抱き着いた。

「リョーマごめんね〜〜!!」

「・・・大丈夫っス」

「オイ、舌見せてみろ」

泣きそうなジローを宥め腕を解かせると跡部の方へ向く。
舌を少し出して見せれば跡部は心配そうに眉を下げた。

「痛いだろ?」

「ん・・・だいぶ」

ジローに聞こえないよう小声で答える。
すると跡部の隣に座る忍足が顔を出した。

「越前、大丈夫か?もしかして猫舌なん?」

「っス、ちょっとだけ・・・」

「お前は“ちょっと”ってレベルじゃねぇだろ。ラーメン食えるか?」

「痛いけど食べたいから食べる」

「ちゃんと冷ましてゆっくり食えよ?」

「わかってる」

「リョーマ〜!!水いっぱい持ってきたっっ」

ジローが両手に持てるだけコップを抱え、ドンッとテーブルに置いた。

「ありがと。チャーシューすいませんでした」

「ううん!!俺もホントごめんね〜!!」

麺を数本箸で持ち上げ、ふぅふぅと息をかける。
恐る恐る口に入れると案の定、舌がズキンと痛んだ。
少し麺が伸びてしまったけど仕方がない。
勿論スープを飲むのも辛いが、濃厚だけど臭みがなく、割りとあっさりしている味が凄く気に入り、痛みを我慢しながら何度も飲んでしまった。
しかし一回一回念入りに冷ましてから食べているため、食べるスピートが周りと比べて遅くなってしまう。
席数の関係上、食べ終わったら出なければいけないため、宍戸や岳人達は外で待ってると言い残して次々と出て行ってしまった。
早く食べ終わらなければと箸を動かす手を早める。
すると頭にポンッと手を置かれた。

「急がなくていい」

安心させるような優しい声がリョーマの耳に届く。
ふと跡部のどんぶりを見ると、自分のどんぶりの中身と量がほとんど変わらなかった。
いつも以上にゆっくりと時間をかけて食べている跡部。
リョーマの食べるスピードに合わせていたのだ。

「ありがと・・・ラーメン美味しいね」

「あぁ、たまには庶民の味も悪くねぇな」

なんか景吾とラーメン食べるのって新鮮で楽しい。
皆には悪いけど、もう少し待っていてもらおう。
そう思いながら、すくったスープに息を吹きかけゆっくりと口の中に流し込んだ。








ラーメン屋を出た跡部は、何も言わずに斜め向かいにあるコンビニへ行ってしまった
そして数分後。
戻てきた跡部の手には、リョーマの好物であるラムネ味のアイスバーがあった。

「これでも舐めて冷やせ」










...end.
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