「それアイスなのか?」 「うん、二本入ってるから一本あげる」 コンビニの袋から取り出し、パッケージを開けて、パキッと割り、冷たいソレを景吾に差し出す。 綺麗に整えられた眉は眉間に寄せられていて、空色の瞳は俺が持つ細長い薄茶色いチューブを怪訝そうにジーッと見つめていた。 「やっぱり知らないか。パピコって名前のチョココーヒー味のアイス。食べてみなよ。結構いけるよ?」 「......」 「早く持って!」 冷たいんだよ、と一向に受け取る気配がない景吾の手を掴んで無理矢理握らせる。 「俺の見てて。ここをね、...こうやって切って吸うの。景吾もやってみて」 「いや、いい。お前が食べろ」 「二本もいらない」 「家に持って帰って冷凍しておけばいいだろうが」 「やだ。いいから食べてよ」 苛立った俺は、自分が持っていたパピコを景吾の口に無理矢理突っ込んでやった。 「ぐふっ!」 すぐさまグッと押し出すように指に力を籠めれば、先端のアイスが景吾の口内へ落ちていく。 「どう?オイシイでしょ?」 「ゲホッ、やめろ!唇痛ぇだろうが!それにチョコの味もコーヒーの味もしねぇ。何だこの独特な味はよ」 「するじゃん」 「しねぇよ」 本当は桃先輩がうまかったと教えてくれた新発売のグレープソーダバーを買おうと思ったんだけど。 ふと隣を見たらこのパピコが目に入って。 そのとき、家で見た一本のCMを思い出した。 制服を着た高校生らしい男女のカップルが『暑い暑い』と言いながら、コレを二本に分けて食べながら帰るという内容だ。 その様子が凄く青春っぽくて、初々しく感じたのを憶えてる。 そしたら実際にやりたくなって、目当てのグレープソーダバーに心の中でさよならを告げたあと、俺はパピコを手に取った。 このことを景吾に話したらどんな反応をするだろうか。 呆れた顔をして、単純だとかガキだとか、そんな言葉を上から投げかけられそうだ。 だから内緒。 「あちぃ...。やっぱり車呼ぼうぜ?その方が早ぇし涼しい」 「えー、たまには歩いて帰ろ?俺んちまでもう少しじゃん」 「......」 「いつも車移動だしさ。夏を感じようよ」 「部活で毎日のように感じてる」 全てが溶けてしまいそうなジリジリした太陽。 もくもくと広がる入道雲。 近くの木々からは蝉の鳴き声。 CMのシチュエーションと似てる。 へへ、再現してやった。 まぁあのCMのカップルはお互い美味しそうにパピコ食べてたけど。 この人に庶民の味はわからないから仕方ないか。 並んでパピコ持っただけで良しとしよう。 うんうん。 「何笑ってんだよ」 「なんか楽しい」 「ァン?こんなクソ暑い中歩いてどこが楽しいんだよ。苦痛だ苦痛」 「俺は楽しいの!!」 せっかくの良い気分を台無しにされ、ムカついて脇腹に肘鉄を一発お見舞いしてやった。 「ぐっ...!!テメェ、何すんだよ...!!」 鈍い声を上げ、横腹を擦って俺を睨んでくる景吾。 そのもう片方の手に持たれたままの未開封パピコは、この気温のせいでポタポタと透明な雫を落とし、灼熱のアスファルトに点を描いていく。 本当に食べないつもりらしい。 せっかく買ったのに勿体無いじゃん。 これだから金持ちは...。 家に着く頃には完全に溶けてるだろうな。 ジュースにしちゃうくらいなら俺が今食べる。 景吾の手からパピコを奪い取り、両手で持ちながら早歩き。 あーぁ、俺のパピコもだいぶ溶けてる。 咥えて軽く吸い上げただけで冷たいアイスが口内に広がってきた。 甘くて、でも少しだけビターな味。 美味しいのにな。 「オイ!待てよ!!」 今の俺には後ろから追いかけてくる景吾に構う暇なんて無い。 溶け続けるパピコを早く食べなきゃいけないんだから。 なんたって二本あるし。 ギュッとチューブを強く握り、吸い上げる。 俺の言動に焦りを感じたのか。 宥めるような口調で話しかけてくるテノールボイスを右から左へ流しつつ、パピコのおかげで体が涼しくなってきたなぁと思いながら家路を歩いた。 fin. □□あとがき□□ 約一年ぶりの更新です。 ネタが浮かんでもなかなか思うように書けず、気付けばこんなにも月日が過ぎていました。 さて! このお話ですが、跡リョのとある一日の一コマという感じです。 私が近所のコンビニに行ったとき、店の前でパピコを分け合ってキャッキャッしているちびっこ達を見て浮かびました。 話の中の跡リョはキャッキャッしていませんが(笑) CMを再現したくなっちゃったリョーマ、なんか女々しいですかね。 でもまだ12歳なので、真似したくなるのも子供らしいかなと思ったり。 ラストにあったように、このあと跡部様はひたすらご機嫌取りを続けます(笑) 相変わらずタイトルもセンス無いですし、内容もグダグダですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 ここまで読んでくださって有難うございました。 2013/09/23 |