「うぅ...、さむ...早く開かないかな」 さすがにパジャマとパーカーのみは寒かった。 もうちょっと厚手のもの着てくれば良かったな。 そう自分の選択ミスを頭の中でぼやいていると、目の前の大きな玄関扉がゆっくりと開かれた。 「こんな時間にどうした?とりあえず早く部屋に入れ」 アポ無しで突如訪れた俺に驚く景吾。 促されて部屋に足を踏み入れれば、室内は適度に暖められていて、冷えた体がじんわりと熱を取り戻していく。 「何かあったのか?もうすぐ0時だぞ」 「別に...」 「ていうか何で来たんだよ。まさか歩きじゃねぇだろうな」 「ミカエルさんに頼んで車手配してもらった。歩きで来たら景吾怒るじゃん」 「当たり前だ。チッ、ミカエルのやつ俺に何も言わなかったぞ」 「別に言わなくていいって言ったんだよ。怒らないでね。あ、今晩泊まるから。パジャマ着てきたし」 「あーん?それは構わねぇが...。南次郎さんと喧嘩でもしたのかよ?」 「は?違うよ。大丈夫、ちゃんと言ってきたから」 「ならいいけどよ。...ほら、紅茶でも飲め。今晩は冷えただろ」 「ん、ミルクティーにして」 「自分でやれよ」 「えー、いいじゃん。やって?」 二人してソファーに座り、可愛らしく首を傾げてねだってみれば、景吾は「しょうがねぇな」と溜め息をついて砂糖とミルクを入れてくれた。 スプーンで必要以上に長く掻き混ぜてから俺にカップを差し出す。 これは紅茶の温度を下げるため。 俺、猫舌だから。 「ほらよ。もう飲めるだろ」 「...ん、丁度いい熱さ。ありがと。...、......美味しい...」 砂糖とミルクの量も俺好み。 さすが景吾。 よくわかってるじゃん。 「なぁ、リョーマ。無理に言わなくてもいいけどよ。何か悩み事とかあるなら言え」 カップをテーブルに戻すと、真面目な声音でそう言われて抱き寄せられた。 まだ俺の来訪の理由を気にしているらしい。 「そんなんじゃないよ。ねぇ、もう寝よ?」 厚い胸板におでこをぐりぐりと擦り付ける。 やがてふわりと体が浮いた。 歩く振動が心地良い。 「ほら、来いよ」 横になった景吾が片腕を伸ばし、もう片方の手で俺を手招きする。 ごろんと寝転がっていつもの定位置に収まると、ジワジワと睡魔が押し寄せてきた。 枕元の時計を見れば23時55分。 まだダメ。もう少し、もう少しだから...。 「寝ないのか?」 寝まいと瞬きを繰り返す俺に、景吾が不思議そうに眉を寄せて覗き込んできた。 「ん...、もうちょっと起きてる...」 「あーん?寝るって言っただろうが」 「...うるさい...。まだダメなんだよ」 23時56分... 23時57分... 23時58分... 23時59分... あと50秒... 40秒... 30秒... 「リョーマ?」 20秒... 10秒... 「さっきから時計気にしてねぇか?どうしたんだよ?」 5... 4... 3... 2... 1 ――――。 「ん...、Happy Birthday,景吾」 日付が変わったのと同時にキスを送る。 今日は10月4日。 俺の大好きな人が生まれた日。 「お前...」 「くくっ...やった、驚いてる。一番最初にお祝いしたかったからこうして来たんだ」 「俺の誕生日覚えてたのか?」 「当たり前じゃん、忘れないよ。...わっ!」 笑ってそう返せば途端に強く抱きしめられる。 ちょっと苦しいけど。 でもまぁいっか。 「でさぁ...プレゼントなんだけど。何あげようか結局決まらなくて」 だって景吾が欲しい物なんてきっと高価に決まってる。 もっとファンタを我慢すれば良かったとか、先輩達との遊びや外食を控えれば良かったとかそんな後悔をしつつも、例えそれを実行していたところで買える物じゃない。 安い物じゃこの人にとってはプレゼントなんて思わないだろ。 ていうか欲しい物は自分で手に入れる人だし。 そう思ったら結局何も用意できなかった。 「別にいらねぇよ。お前がいればいい...、......」 俺がいれば? それでいいの? 「...ん。...じゃあ...さ、.........俺をあげるよ」 「......!」 あれ、違うのかな。 黙っちゃった。 「...景吾...?ごめん、やっぱり今のは...」 変な温度差を感じて訂正しようと口を開けば、体を離されて唇にキスをされた。 「...ん、...んん......。...はぁ...けぇ......ご......?」 「...最高のプレゼントじゃねぇの。すげぇ嬉しい」 そう言って嬉しそうに再び俺を抱きしめて、額や鼻を擦り付けてきた。 「ふふっ、くすぐったい」 「うるせぇ、我慢しろ...」 「ねぇ本当にくすぐったいってば。......、...今日はずっと一緒にいよ?」 「馬ァ鹿、今日だけじゃねぇ。これから先も一緒にいろ」 「...!そうだね。言っとくけど返品不可だから」 「フッ、返品なんざするわけねぇだろ。ていうか『今日は一緒に』って学校休む気か?手塚に走らされるんじゃねぇの?」 「別にいいよ。景吾の誕生日に一緒にいられるなら、あとでいくらでも走ってやる」 そう強気に言ってみたものの、部長の怒った顔が脳裏に浮かぶと一瞬怯む。 それでも俺は景吾といたい。 夏休みが終わった頃、お互いの誕生日の話をしたことがある。 「どうせアンタは誕生日に盛大なパーティーとかやるんでしょ?」って聞いたら「今年はやらない。一日空ける」って返された。 理由を聞いても「特にねぇ」の一点張りで、「家族で祝うの?」と聞いても「仕事が忙しいから帰ってこないだろうな。いつもそうだ」なんて寂しい返答。 「じゃあ今年は俺が祝ってあげるよ」と上から目線で伝えると「どうせお前のことだから、すぐ忘れるんだろうな」と失礼なことを言われたっけ。 ねぇ、俺に祝ってほしかったんでしょ? 一日中、一緒にいてほしいから今年はパーティーやらないんだよね。 俺がいつ来てもいいようにさ。 だってさっき俺が来たとき、驚いてたけど 一瞬口元が緩んだのわかったよ? 期待してたんでしょ? 「じゃあそのときは俺も一緒に走ってやるよ」 「えー。青学にアンタが来たら周りが騒ぐじゃん。いいよ、来なくて」 「ハッ、そうかよ。.........リョーマ、ありがとな」 空色の瞳に見つめられ、俺の心臓がドクンと高鳴る。 間近で見る顔もやっぱりムカつく程カッコ良くて、改めて見惚れてしまった。 「ねぇ、受け取ってよ。プレゼント」 「...?」 景吾の首に腕を回してぎゅっと擦り寄れば、数秒遅れて言葉の意味を理解した景吾が俺の髪を優しく撫で、より強く抱きしめた。 「リョーマ、キスしようぜ」 「ん...」 腕の力を弱め、視線を合わせる。 頬に手を添えられ、ゆっくりと目を閉じると触れるだけのキスが降ってきて。 それは次第に激しいものに変わっていく。 「ぁ...ふぁ...、...ん...っ......、......」 「.....リョーマ...愛してる...」 「ん...、俺も...景吾が好き...大好き。...愛してる...」 仰向けになると、景吾がゆっくりと覆い被さってきて。 互いの手を絡めて離れないよう強く握る。 吐息を零しながら再び降るのは、甘くて優しいキスだった。 ...end. ○あとがき○ 跡部様お誕生日おめでとうございます! カッコ良くて努力家で俺様な跡部様が大好きです...! 今日はリョーマにたくさん祝ってもらってください( ´艸`)←体で...!! 2012*10/4 |