宙兄弟
センチメンタルパーティー!



俺は今、アリゾナ州の砂漠のど真ん中にいる。12月だってのにクソ暑い。
これじゃちっともクリスマス気分になんかなれない。
いや、クリスマス気分になれない理由は暑いからだけではない。


昨日、俺の元に2通のメールが届いた。


ひとつはうちゅうちゃんからのクリスマスパーティーの店と開始時間、料金が決まったというお知らせのメールだった。しかもチラシのような画像付きだ。
訓練でヒューストンを離れている俺の代わりに店を探していてくれていたらしい。誘ったのは俺の方なのに、なんとも申し訳ない。

それでも好きな人とクリスマスパーティーが出来ることを想像してワクワクしながら、もう一通のケンジのメールを見て俺は驚愕の事実を知った。


ケンジの話によると、こうだ。

どこからか俺たちがパーティを開くということを嗅ぎつけたNASA職員が「それなら会社でやるパーティと一緒にしちゃえばどうだ?」とうちゅうちゃんに提案したらしい。そしてうちゅうちゃんの肩を叩いて「まかせた!」といって去って行ったと…。

ということは、うちゅうちゃんは今、何十人と参加するパーティの幹事ということになる。気合いの入ったチラシ画像はNASAで配るためのものだろう。


「マジかよー、俺のせいで…」


こんな事なら訓練に来る前に全部決めてしまえば良かった。あ、でも俺がコッチにいる間にNASAのパーティーに変更ってことになるから結局は一緒か…。
普段ならケンジが気を利かせてくれるのだろうが、なんせ今は嫁さんの出産が控えてるのでうちゅうちゃんが「大丈夫ですから!」とか言ったんだろうな。
あぁ、うちゅうちゃん本当にごめん。


そして俺が頭を抱える事実が…もうひとつ。


"ちなみに、うちゅうちゃん1人じゃ大変なので新田君がフォローに入ってくれてるよ。"



「ぬおおおーーー!!!!!」



俺の叫びが砂漠中に響きわたった。




ーーー…



ここ最近のあたしは本当に頑張ったと思う。仕事の合間をぬってパーティができるお店を探し、フライヤーを作り、参加人数やら提供する料理の打ち合わせやらに走り回った。

これも南波さんとのクリスマスパーティーのためにって。


お陰様でパーティーは大賑わい。
あたしが幹事になったと知ったNASAのスタッフが「踊りたい!」「日本人のうちゅうには分からないだろうが、踊りがなければパーティーじゃないんだよ!」ってしつこいから、カントリーダンスをセッティングしたんだけどさぁ。


「楽しそうですね…南波さん…。ははっ」


ダンスフロアで楽しそうに踊る南波さんとせりかさんを眺めながら、あたしは乾いた笑みを浮かべた。


「…ほし、飲み過ぎじゃねぇか?」
「…確かに、うちゅうちゃんペース早いね…」
「飲みたくもなりますよ…これじゃあたし、あの2人がイチャイチャする場を作っただけじゃあないですかぁ〜…」


課題があるからと、お酒を控えめにしている真壁さんと新田さんを横目に、あたしは何杯目かのビールジョッキを口にした。

こんな展開、予想してない。
もっと、こう、南波さんと楽しくキャッキャしながら過ごせると思ってたのに…。


「南波さんと過ごしたくて頑張ったのに…」
「あああ、ほし!飲め飲め!」
「あー、今日は素敵なパーティだなぁ!幹事さんに感謝しないと!」
「うわぁーーーん!!!」


今にも泣き出しそうなあたしを見て、真壁さん達はオロオロしながらも必死で慰めてくれた。きっとこの2人がいなかったら、イジけて帰ってたと思う。



その後も真壁さん達はあたしに付き合ってくれていたが、室長が来て「話がある」と2人を連れていってしまった。

手持ち無沙汰になったあたしは酔いを冷ますため外に出ることにした。ついでに頭も冷えればいい。彼女のヤキモチならかわいいもんだがあたしのは、ただの醜い嫉妬だ。


「うー、さむっ。」


店の中の熱気もあってか、外の空気は普段より一層寒く感じた。あとあたしの寂しい心のせいもあるのかもしれないけど…今はそこには触れないでおこう、うん。

賑やかな声を遠くに感じながら、出入り口の階段に座り空を見上げてみるが、店の明かりのせいで星はほとんど見えない。真っ暗だ。
そこに自分が吐いた白い息がモヤモヤと上がる。火照りが覚めるまで、ただそれが消えるのを眺めた。


あーあ、せっかくのクリスマスパーティーなのになにやってんだ、自分。


「あれ、ほし、お前こんなとこで何してんだ?」

さっき室長に借り出されて行った新田さんが店の裏手側から歩いてきた。

「あたしは酔いと頭を冷やしに…」


ちらり、と店の中に目をやると南波さんとせりかさんが楽しそうに話しているのが見えた。新田さんにも見えたのか「ああ…」とちょっと呆れ気味に納得し、あたしの隣に腰を下ろした。


「新田さんこそ、外で室長と話してたんですか?」
「ああ、まあな。」
「……もしかして、イイ話ですか?」
「まあな。なんで分かった?」
「ん?そんな顔してたんでっ。おめでとうございます。」
「ああ、やっと目指す場所が決まった。」


どんな任務かは正式な発表まで機密なので詳しいことは聞けない、聞かない。
しかしこれで、どこを目指しているのか曖昧な訓練がガラリと変わる。
前を見据える新田さんの表情はいつものクールフェイスを崩していないのに、やる気に満ち溢れてるようにみえた。
嬉しさを顔に出さない新田さんの代わりに、あたしがニヤニヤしてしまう。


「じゃあ、今日は祝い酒ですね!飲み直しますか!」
「お前の方はどうする。」
「あー…いや…、とりあえず保留で…」


新田さんに痛いところを付かれ、あたしは歯切れが悪い返事を返しながら店内に戻るため立ち上がった。

「しかし、クリスマスプレゼントだなんてバトラー室長も粋なことしますね〜。」

なんて言いながら階段を登ろうとしたが、いきなり腕を掴まれたあたしはバランスを崩しふらついた。
何事かと振り向くと、何かを覚悟したかのような表情をした新田さんが、そこにいた。







「なぁほし、俺じゃダメか?」

「へっ?」

「南波やめて俺と付き合わないか。」

「それって…」

「お前のことが好きなんだよ。」







つづく。
ケンジ!うちゅうちゃんと新田が2人きりで外にいるんだけど!いい感じっぽいんだけど、どうしよう!!!
…ムッくん。言いたくないけど自業自得だと思うよ。



(うちゅうちゃんはムッくんの何処が好きなんだろう……。)

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