宙兄弟
play a trick



「trick or treat!!」
「むむ、紫さんっ!?おはようございます!」
「うちゅうちゃん、trick or treat!今日は何の日か知っってるかなー?」

出勤早々に紫さんが声をかけてきた。
今日は10月31日、カツオ君が一番イキイキする日だ。

「分かってますよ〜、紫さんから逃れる為にちゃんとお菓子を…あれ?」

あれ?あれれ?
昨日、スーパーでバラエティパックのお菓子を買って巾着に詰めたのに…

「…ない。」

バッグを必死に漁るが、巾着の姿は何処にもない。廊下だということもお構い無しにバッグをひっくり返し、何か一つでもお菓子がないか探してみるも…飴ちゃんさえ出てこない。

「えーうちゅうちゃん、もしかしてお菓子ないのー!?」

ヤバイヤバイヤバイ。
恐る恐る見上げると、紫さんの目がこれでもかっ!ってぐらいイキイキしている。

「いやいやいや、あるんですよ、あるんです。でも今、ちょーっと渡せないだけで、」
「ダメー、今すぐお菓子くれないといたずら決定ーっ」
「誰かーっ!!誰かお菓子をくださいー!」
「人から貰っちゃダメだよぉ」
「ぬおおおお!」


なんで巾着忘れたのアタシ!
絶対ウチのテーブルの上にある…。
アレさえあれば今日は平和に過ごせるはずだったのに!

「お菓子くれなかったからうちゅうちゃんにいたずらしーちゃお!楽しみにしててね♪」

紫さんはウィンクをして忍者のように素早く姿を消し、最悪の1日が始まった。


自分のデスクにつき、引き出しを開けると大量のクモ(おもちゃ)。あたしの叫び声はNASA中に響き渡ったらしい。
数分前にいたずら宣告されたばかりなのに、仕事が早すぎる。

お昼は食堂でオムライスを食べた。
紫さんの姿はなかったのに、オムライスにかかっていたケチャップがすでにタバスコだった。まだ口がヒリヒリしてる。

その他にも、出会い頭におどかされたり、ブーブークッション置かれたり、背中に変な張り紙されたり、何故か黒板消しを頭に落とされたり…。

仕事も終わって、やっと紫さんから解放されて家でゆっくりできると思ったら、玄関にたどり着く前に落とし穴に落ちました。ええ、ええ、そりゃあ見事にズボッとね。
笑顔で逃げる紫さんを追いかける体力なんてあたしにはありませんでした。


「これさえ忘れてなければ!」

玄関をあければ、テーブルの上にポツンと置かれた巾着。今となっては必要ないものだ。ちゃんと用意してあったのに、なんで忘れるかな、あたし…。
こうなりゃ全部食べてやる!


・・・


私は今、ソファに寝転んでTVを見て、今日一番の落ち着いた時間を過ごしている。巾着に入っていたお菓子も、もう半分なくなった。

ブー、ブー、ブー

突然、コーヒーテーブルに置かれたケータイが震えだし、メールの受信を知らせた。

ん、紫さんからだ。
今日はいたずらしてゴメンね☆とか?

「ぎゃああああ!」

送られてきたのはゾンビのドアップの画像だった。まだやるか、紫三世!
彼の中でまだハロウィンは終わっていないのだ。

その後のあたしは、お風呂のフタを開けるのも、お風呂から上がってきたリビングも、見えない紫三世の影に怯えた。
幸い、お風呂もリビングも無事だったが彼のことだ、まだ何か仕掛けてくるんじゃないかとビクビクしていた。



11時58分、やっとハロウィンが終わりを迎える。


ピーンポーン

こんな時間に訪ねてくるのなんて、一人しかいない。あたしはそっと覗き穴で確認をした。

「やっぱり紫さんだ。」

ドアの外にはニコニコした紫さんが立っている。ハロウィンのラストイタズラをする気に違いない。
ドアなんて開けるもんか!

ピポピポピンポーン

「うちゅうちゃーん!開けてよー」
「嫌ですー。近所迷惑なんで帰ってくださいー。」
「早く、早く開けてくれないと時間がっ!」
「日付が変わるまで開けませーん。」
「じゃあうちゅうちゃんの秘密、大きな声で言っちゃおうかなー?」
「はぁ?」
「うちゅうちゃんの好きな人はー」
「ちょちょちょちょっ」

ガチャ

「何言おうとしてるんですか!」
「こんばんわ、うちゅうちゃん」
「何しに来たんですか?」
「ちょっと伝えたいことがあってね、」
「?」




俺は君が好きだよ。


ど、どうせそれもイタズラでしょ。
今はもう11月1日だよー
じゃあ…
うちゅうちゃんが好きな人は、俺。違う?
……違わない。

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