宇宙兄弟
一人暮らし、
何年目?
この会社に入って
何年目…だっけ?
同期のもじゃもじゃと隣の席になって
どれぐらいだったっけ?
「はよー。」
「うちゅうさん、おはよーっす。」
今日も出勤してもじゃもじゃに挨拶をする。
昨日ももじゃもじゃ、きっと明日も同じようにもじゃもじゃなんだろう。
もじゃもじゃこと南波六太の頭を眺め、そんなくだらないことを考えていたらその視線に気がついたらしい相手が不思議そうな顔で話しかけてきた。
「あのー…俺の頭になんか付いてる?」
「いや、別に。もじゃもじゃだなぁって。」
「ひどい!これでもちゃんとセットしてきたのにーー」
「いやいや、褒めてる。毎日、綺麗にもじゃもじゃだなーって関心してる。」
「うちゅうさん…そんな死んだ目で褒められても嬉しくないっすよ」
呆れたように頭をかきながら南波が立ち上がり、オフィスに設置してあるコーヒーマシンの脇に立つ。カフェオレでいいですか?という問いに私はサンキューと返しながら、仕事を始めるべく引き出しからペンやらなにやらを取り出し準備にかかる。
「なんかお疲れモード?」
「うーん、昨日ベッドに入った後に人生について考え出したら思考の無限ループにはまって…ソレをちょいひきずってるカモ。」
「あー、たまになるよね、所詮俺はドーハの悲劇産まれで宇宙のゴミクズだ的な絶望感を味わうやつ。」
南波の入れてくれたコーヒーを受け取りながら、爽やかな朝に似つかわしくないネガティブな話しで盛り上がってしまう。
「じゃあ今日、仕事終わったら飲みにでも行きますか?」
「まじ!?行く行く!!おっしゃ、やる気出たわー!!」
そう言って、気合いを入れるべく椅子に座りながら伸びをするうちゅうさん。
この自動車設計会社は圧倒的な男子率で、事務職以外の女性は片手で数えられるぐらいだ。その中でバリバリ働く彼女と同じプロジェクトメンバーになって早2ヶ月。あの発表の時ガッツポーズをした人間はどれぐらいいただろうか。
たぶんほとんどの人間がそうだっただろう。
隠すことはない、私もその1人だ。
同期といってもプロジェクトが被らなければ接点はあまりなく、うちゅうさんと一緒になったのは入社1年目のグループ以来だった。
憧れている。
デスクが隣同士になったことで小躍りするぐらいに。
−−−−−−ーー
「ふはぁー、あーぁ…彼氏欲しい。」
仕事が終わり、南波と2人で駅近くの居酒屋に入り飲み始めて2時間ぐらい。仕事の話もひと段落した頃、ぽつりと本音がこぼれた。
「あれ、うちゅうさん彼氏いないの?」
「いないよ、いない。どれぐらい居ないのかも忘れたぐらい居ない。」
歳をとると、時間の感覚が早くなるっていうのは本当だ。もう最近は過去のことなんてなんもかんも分からなくなっているのに、漠然とした未来への恐怖だけは明確になっていく。
「でもうちゅうさんなら選び放題だろ?」
いい感じの顔色になっている南波がとぼけた顔でとぼけた問いかけをしてきた。
「そんなんだったら、もう嫁にいってるわ!どうしよう、このまま1人で老後になって孤独死したら〜」
「老後までは一気に話飛びすぎでしょ〜」
「だってさ、会社入ったのつい最近だったはずなのに、もう何年経ってるか分かる?どんだけ後輩結婚してると思ってんのー!!」
「まぁ、確かに…。俺も人のこと言えないし」
「好きな仕事ができて楽しくて夢中になってたけど、気がついたら周りの女友達はほとんど結婚してるし、子供産まれてるし、今更ながら焦るわ〜…」
あー、ごめん、こんな愚痴聞かされたって困るよね。久々に飲んで酔っ払ってるわ。そう言えば気にしないで、と微笑むもじゃもじゃ。
いつの間にか頼んであった水をもらって酔いを和らげる。気がきく、本当にこの男は周りをよくみている。
「次の彼氏と付き合うと、年齢的にも自然と結婚意識せざるをえなくて、そうすると慎重になるし、今から出会いから始めるとか面倒くさい、無理。もうやだ〜、むり〜、」
水と酒を交互に飲みながら、それでも酔っ払っていくうちゅうさんは普段では想像できないぐらい子供っぽくなっている。なにこれ可愛い。
それでも、それなら俺と付き合う?とか冗談でも言えない俺はヘタレか。
でも、あわよくば、このまま…。
いやいや、落ち着け俺。
こんな話しされてる時点で脈はないだろ。
いやいやいや、でも。
…いやいやいや。
−−−−−−
くそ、南波め。
じゃあ俺と付き合う?
とか言ってよ。
いや、でもそれ言われても
お願いします、
とも言えなくない?
だからって
好きです、付き合ってください
って告白はできない。
気にはなってるけど、
恋に恋い焦がれてる年齢じゃない。
そういう雰囲気になってから?
そういう雰囲気ってどうやって作るの!!
大人の恋って
どうやって始めるの!?臆病な2人
つづく…かも。