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ほてり/Another Side2
※軽い流血表現があります※
「西宮夏哉って子いる?」
お昼休み。教室がザワザワと騒がしい。
いつもの如く瀬川に晴希を連行され俺は教室でふて寝もとい惰眠を貪っていた。
「ちょ、ちょっと西宮!!先輩、藤間先輩がアンタのこと呼んでる…!!起きて!!」
いて いてっ
クラスメイトの女子、香川(カガワ)にバシバシと叩き起こされ何事だ?と顔を上げた。
寝ぼけ眼で目をこすりながら俺の席の横に立つ男に目を向けた。
「よっ」
「…誰だお前」
「バカかお前はーーー!!!」
俺の一言にそばで見ていた香川は顔を真っ赤にしてパシーンッとまた頭をはたいた。
「っるっせー何なんだよ 暴力女!」
「あーはいはい。良いから良いから。夏哉ちょっとおいで」
「はぁ?なんでだよ」
「まぁまぁ」と言われそのまま腕を引かれ連行された。
寝起きでぼやっとする頭では思考がまとまらず拒否するのも面倒なのでとりあえずそのまま付いて行くことに。
後ろを振り返ると香川がワナワナと震えていた。何だったんだアイツは。
教室を出た瞬間静まり返っていた室内はまたザワザワと騒ぎ始めていた。
暫くして空き教室まで連れて来られた。
嫌な予感しかしない。
…目が覚めてきてそう言えばコイツさっき先輩とか言われてたな、と思い出し俺さっきちょっと態度悪くなかった…?!って急にソワソワしてきた。
これでも一応体育会系なんでね。上下関係は大事っす。ウス。
やばいボコられるかも…渾身のアッパーで逃げるしかねぇと腹を括ろうとしたとき、男がこちらを振り返った。
「…ん?アンタ…この前の」
コイツこの前俺のことバカにしてきてチョコぶん投げ返したやたらイケメンなピアスじゃら男では?(夏哉命名)
男はニコッと笑った。
「あ、思い出した?あの後夏哉全然中庭来てくれないんだもん。俺寂しくってさ〜だから来ちゃった」
「…は?」
何言ってんだこの男は。寂しくても何もやり取りしたのなんてあれっきりだろ。
コイツ相当暇なのか?…それともあの時のことまだ怒ってるのか?
「はぁ…俺は別に会いたくなかったですけど」
「夏哉は冷たいね〜俺にそんなこと言うのお前くらいだよ」
思わずムッとしてしまう。
「てか何なんすか。その夏哉って。気安く呼び捨てにしないで欲しいんすけど。」
「じゃあ夏哉も俺のこと呼び捨てにしたらいいよ。」
男は絶えずニコニコと表情を変えずやたらキラキラした甘い笑みを見せる。
うぐっ 瀬川といい顔の良い男は嫌いだ。
「…ッ つか知らねーし。アンタの名前」
「あれ?言ってなかったっけ?あー…じゃあ改めて。俺は藤間千景(トウマ チカゲ)3年だよ。夏哉はトクベツだから千景でいーよ」
「呼ばねーよ!!」
ダメだ。この妙に間延びした話し方といいどんどんコイツのペースに飲まれる。
敬語を使おうとしたけどこんな奴に気を遣うだけ無駄だ。
用がないなら帰ると言い教室を出ていこうとしたら急に強い力で抱き寄せられた。
「は…はぁ?!ちょ、マジなに ひぁっ」
「あは 夏哉ほんとかわいーね」
な 何が起きてる…?!!
突然背後から抱きすくめられたかと思ったら耳を食まれ耳元で囁かれ腰が砕けそうになった。
ピチャッと水音がして舌で耳を舐められているんだと分かりカァッと身体が熱くなる。
日々部活で鍛えている筈なのに藤間の力は強く引き剥がそうにもビクともしなくて急に怖くなった。
そのまま藤間の手がワイシャツを捲り腹部に冷やりとした感覚が滑った。
「や 、やめろ!!放せって! うぅ うぁっ…!」
俺は必死で暴れて手を振り上げたとき、何かが指に引っかかりそのままブツンッと鈍い音がした。
「いっ、てー…」
コンッと固いものが落ちる音がしてパタと床に血が飛び散った。
腕の力が緩んだ隙に咄嗟に藤間の腕から逃れ血の跡を追う。
「あ…ごめ…ごめんっ」
複数付けられたピアスの一つに引っかかり引きちぎってしまったようだ。
藤間の脱色された長めの髪に血が滴り、制服のワイシャツには血が滲む。
その様子に俺は真っ青になってごめん、ごめんと震える声で繰り返すことしか出来ないでいた。
「んー いーよいーよ。」
「で でも!救急車…!」
「ふはっ 大袈裟すぎ。耳なんて穴だらけだし変わんないよ。治る治る」
そういうことじゃ…!と言おうとしたら腕が伸びてきて今度は優しく抱き寄せられた。
怪我をさせてしまった手前突き放すことも出来ず大人しく腕の中に納まることにした。
「あれ?逃げないの?」
「…怪我人をそのままにして、置いてけない。保健室…行こう」
そう言うとフッと笑った声が聞こえて
「無理やりされたのに俺の心配なんて夏哉はバカで優しいね」と優しく髪を梳かれた。
…バカは余計だ。
「はー…俺傷物になっちゃった…。夏哉、俺のこと貰ってくれる?」
「え」
「俺もうお婿に行けないから。夏哉に責任とってもらうしか無いよね?」
「は」
「夏哉だから優しくしてるけど捨てられたら俺、怖いよ?」
今までの人好きのする甘やかな笑顔と一転して怒らせたら確実に殺られる、と背筋がゾクリとするような笑みを浮かべる藤間に俺は思わずコクリと頷いてしまった。
チャイムが鳴って藤間はパっと俺から離れるとニコッと笑い「はいはい授業行きな〜」と俺を教室から追い出した。
「え、あの 保健室…!」
「大丈夫大丈夫〜帰り迎えに行くから。」
血はまだ少し出ているみたいだったけど藤間に追い出され仕方なく戻ることにした。
自分のせいだし心配だけど保健室くらい自分で行くだろ、と心配を振り切るように首を振り教室へと向かって行った。
教室に入るや否やクラスメイトの視線が一気に自分に注がれ何事かと思ったときには香川に呼び出され
「西宮!!アンタ無事だったのね?!!授業終わったらちょっと話あるから」と言われ俺は首をかしげつつ分かったとだけ伝えた。
無事って何なんだ。それにクラスメイトの視線も気になった。
授業が終わりすぐに香川が自分の席まで来てさっきのことだけどと話し始めた。
「アンタを昼休みに呼び出したのは藤間千景先輩。3年の人よ。あの人はかなりヤバい噂があるの。」
「…ヤバい?」
「うん。家がね極道って話よ。部活の先輩が藤間さんと同じ中学校だったみたいでその時から異質な存在だったんだって。藤間さんに喧嘩売った生徒は病院送りになったり急な転校が何人もあったり…親が倒産して学校辞めた人も居たって話」
「マジかよ…。」
香川からつらつらと出される言葉にみるみる顔が青褪めていくのが分かる。
とても信じられない話ではあるけどあいつなら…と、どこか納得してしまう自分がいた。
「まぁ、普段はニコニコしてるしあのビジュアルでしょ?男女問わず人気はあるんだけど裏を知ってしまうと中々近づけないのはあるわね。表面上はあのルックスに吸い寄せられるんだけど。女子生徒からの人気も相当なものだしね。」
「…。」
「だから気を付けてね。アタシからの忠告。アンタと先輩の関係は知らないけど…ま、無事帰って来たから大丈夫でしょうけどあまり深く関わらないことね!」
もう遅ぇって!!!
せめて連れてかれる前に教えてくれよ、と自分の席に戻る香川の背中を恨みがましく見つめた。
もしかして俺、ヤバい奴に捕まったのでは…?
本気で転校を考えたくなった。
END
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