君を創った世界に嫉妬する
花見の季節も過ぎ去り、梅雨を目前に湿度が増した今日この頃。
ベタベタと着流しやら髪やらが体に張り付いて不愉快極まりない。
どうしたものかと政宗が眉間に皺を寄せれば、こら、と丁度寄せた部分を人差し指で押された。
「美人さんが台無し」
「鬱陶しい、斬るぞ」
「ぅえ!?眉間触っただけで!?」
「No problem.アンタが俺を組み敷いたとか何とかいやぁ許される。」
「いやいやいや!それおかしいから!!」
半ば本気な政宗に慌てて待ったをかけるが湿気の鬱陶しさに負けた彼はイライラ最高潮である。
そう易々受け入れられることなく木刀を片手に(真剣じゃなくて本当に良かったと思う)膝を立てた政宗にそうだ、と冷や汗を拭いつつ提案を立てた。
「ちょっと早いけど、川にでも行こっか!」
「Riverだぁ?」
「うん、水浴びがてらさ!」
どう?と共感を誘えばじぃーっと探るように見つめられ、思慮顔になった政宗の前で提案した当の本人はというと全く違うことに気をとられた。
(わーちょっとこれはむらっとくる)
少しでも涼を得るためギリギリまではだけられた合わせ目に、無防備に晒されている白い脚。
理性に打撃を与えるのには十分過ぎるのだ。
ゴクリと唾を飲み込んだと同時に思案中だった政宗の顔がパッと上げられた。
「Okay.その話乗った!」
「へ?」
「そうと決まれば待ってらんねぇな!Here we go!」
「ぅあ!?ちょ、政宗引っ張んないで!コケる!」
キラキラと瞳を光らせたかと思うと、慶次の首根っこをひっ掴んでそれ急げと厩へと駆け出したのだった。
それから本当に川へと馬を走らせた2人は、遠乗りがてら山間付近まで走らせた。
馬上で風を切って走るのも大地の芽吹きを感じてなかなかに乙なものである。
しばらくそうして駆けていれば前方に目当てのモノが現れて再度目を輝かせ、殊更に馬を急かした。
「Wow…!So cool!」
「ほんとに…城での暑さが嘘みたいだ。」
川縁でぱしゃぱしゃと水を弾いて幼子のようにはしゃぐ政宗を微笑ましく眺めながら、せせらぎと自然の囁きだけが聴こえてくるこの環境に目を細めた。
京とはまた違った自然の恵みが、この奥州には山ほどある。それはこの地を訪れる度に気づかされ感慨深くさえなるほどだ。
いつか、この景色のお礼にでも彼にも京の恵みを見せてやりたいと強く願う。
いっそのことどこぞの鬼のように攫って行くか、とひとり笑みを漏らしたその時、小さな声と派手な着水音が川縁に木霊した。
「え!?ちょ、今の水音なんだい!?」
慌てて流れの方へと視線を巡らせば、見事に濡れ鼠と化した政宗が川の中で座り込んでいた。
察するに、見た目通り川にはまってしまったらしい。
「冷てぇ…」
「大丈夫かい?怪我は?」
「Ah…No problem.」
水の滴る前髪を掻き上げる一連の流れ。その動作を食い入るように見つめた。
水も滴る、とはこういうことをいうのであろう。彼の場合、只でさえ色っぽいというのに濡れたせいでその色香が更に増している。
体に張り付いた着流しは彼の細くしなやかな体格を強調させ、首筋に絡みつく黒髪は妖艶さを更に引き立たせていて、理性を揺さぶるには十分過ぎた。
「…慶次?」
ぱしゃぱしゃと流れを足元に受けながら、立ち上がることも忘れて首を傾げている政宗の元へと近づいていく。
「政宗」
「Ah…?なんだ…んっ!」
訝しそうに片眉を上げた政宗を引き上げて、赤く熟れた唇に噛みついた。
「ん…っ、ぁ…ふ、ん…」
何度も角度を変え深く舌を絡めれば、もっとと強請るように首に腕が回される。
互いに堪能しあった後ゆっくりと離れていく唇に、名残惜しいと言わんばかりに銀糸が間を繋いだ。
とろんと眼の下がった顔が愛らしくて、酷く愛おしい。
全てが自分のものであると確かめるように、幾分か水分を持った頭をそっと抱き寄せた。
「ねぇ政宗」
「…What's up?」
「いつか、京の自然も見てくれないかい」
こんな雰囲気の時に言う言葉じゃないって言うのはわかってる。
でも、どうしても今伝えておきたかったから。
「どうかな?」
「クク…moodのねぇ色男だこった。」
「はは…でも、今言わなきゃって思ったんだ。俺がこうやって政宗の育った土地を感じられたように、俺の育ったトコも見て欲しいって。…ダメかな…?」
「Hum…そうだな、覚えてたら見てやるよ」
「本当かい!?ありがとう!」
クスクスと腕の中で揺れる体を力強く抱きしめて、溢れんばかりの愛を持って再度口づけた。
君を創った世界が羨ましくて、
言いようのない悔しさを
君も感じてくれればいいのに、なんて、ね。
-END-
自然にさえも嫉妬する慶次と、何となくそれを悟っている政宗、とか。
ほのぼの甘な慶政が大好きです。
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