「美咲、お前何分待たせるつもりだよ。 用意できたか?」
「大ちゃ…」
「ん? あ、ばか。 ちゃんと腹は暖かくしとけ。 ほら」
「…大ちゃん、本当にいいの?」
「何が?」
「…あたしと結婚して」
白いタキシード姿の大ちゃんは盛大にため息を落として。化粧台に座るわたしの横に腰をおろした。
「ったく…お前は何回言わせんだよ」
「…ごめんなさい」
下唇を強く、強く、噛む。
「っでも、この子は…」
そうして、ほんのわずかに膨れた自分のお腹へと手をやる。
『…大ちゃん、あたし振られちゃった。 ただの遊びだったんだって。 他に彼女がいたんだって』
「いいか、よく聞け」
「…うん」
「確かに俺とお腹の子供は血が繋がってない。 これはどうしようもできない真実だ。 お前はそこを気にしてるようだけど」
「…」
「でも、大切なのは血の繋がりだけじゃねえんだよ」
『美咲っ、落ち着けって!』
『っだって…お腹に赤ちゃんがいるなんて…っ、どうしよう』
鼻がつん、として、視界がぼやけていく。
せっかくメイクさんに綺麗にメイクして貰ったのに。これじゃ台無しになっちゃう。
「俺の決心をそう甘くみられちゃ困るんだけど」
『 大ちゃ…? 痛い、離して…』
『美咲、アイツのためになんか泣くな。 俺が…俺が父親になる』
『…は、何言って』
「今はもう、お前の旦那もこの子の父親も全部俺。 分かった?」
『お腹の子供もお前のことも、俺が一生守っていくから』
『…っ』
『ばか、泣くなよ』
「…っ、はい」
「分かればよろしい! ってかいい加減泣きやめ! 式前に目真っ赤にして、喧嘩したと思われるじゃねぇかよ」
『ガキの頃から好きだったお前と結婚できて、同時に子供も産まれるなんて。 俺、かなりの幸せもんなんだからさ』
「ほら、行くぞ」
そう言って、大ちゃんがあたしに向けて手を差し出してくる。
「うん!」
大きく頷いて、力強く手を重ねた。
わたしは今日結婚します
( 世界一幸せな花嫁です )
2012/12/31 修正 back