「ね、焼けた?」



あたしがそう尋ねると、彼、右京は自分のワイシャツの袖を捲って小首をかしげた。




「んーそう? 元から地黒だかんな。 よくわかんね」

「焼けたよー。 なんかね、更に黒くなったって感じ」

「ま、一応夏だしな」


外に出てれば自然と焼けるよ、そう続けて小麦色の肌とは正反対に白い歯を覗かせる。




「ふふ、毎日欠かさず朝から走り回ってるもんね。 暑い中ご苦労さま」


そう口にしたあたしを、ぎゅっと抱きしめてくる筋肉質な両腕。

ふわりと、磯の香りが夏風とともに運ばれてくる。




「…汗くさい」

「しゃあねーだろ。 朝から走り回ってきたんだから」

「…誰かに見られる」

「 隠して付き合ってるわけじゃないから別に問題ないし」


…トクトク、トクトク

布越しに伝わってくる心音。

その優しいリズムも、汗の匂いも、逆に彼らしくていいかなって。







「…あ、」



しばらくそれに浸っていると、頭上から彼の声。

と同時に、ぱっと突き離された体。

…何だか寂しい。




「やべ、部活。忘れてた」

「、え、今日ってオフになったんじゃ…」

「監督の都合で変更したんだわ。 副キャプだし、サボるわけにはいかねーしさ。 悪い」

「ええーっ…」


あたしの不満たっぷりの声質に気づいているのかいないのか。

立ち上がった彼は、使い馴染んだスポーツバックを肩にかけ、呆気なく教室を出ていった。

気をつけて帰れよ、そう残してあたしの頭を強く撫で回して。





「…いっつも部活優先じゃん」


やっと大きな試合が落ち着いて、しばらくは一緒にいられるって楽しみにしてたのにな。


放課後の教室には、髪をぐちゃぐちゃに乱したあたしと、悲しい独り言、外から聴こえてくるセミの鳴き声だけが残された。




「…はぁ、」


ため息を漏らし、ふと目を向けた窓の先、ベランダの奥に広がるグラウンドに。

仲間の元へ駆け寄る青いユニフォームを身にまとった右京の姿。




「はやっ…」


そう言いながらも見入ってしまう。

きらきら輝いた表情で、チームメイトとボールを追いかける彼。ゴールが決まったときには、私といるとき以上に嬉しそうな顔をしていて。

そんな彼を見ていたら、自然と膨れていた頬も緩んできて。




「……サッカー馬鹿め」



約束をドタキャンされたことなんて、結果、どうでもよくなってしまうのだった。






惚れたもん負け
( 引退したら相手して貰うんだから )






2011/12/30 修正 back

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