飛影との情事が終わり、凪沙は仰向けになったままぼんやりと天井を見つめていた。
毎度思う事なのだが、どうして男の人って事後すぐに動けるんだろう。特に飛影は日頃からの修行に加え、元は妖怪なのだから人間とは比にならないほどの体力を持ち合わせている。こちらが疲れ果ててもお構いなしにさっさと身支度を整えるものだから、所謂余韻というものに浸る気は更々ないらしい。
 まぁ、今更彼相手にそんな反抗をしたって、眉間に皺を寄せ「また馬鹿な事言ってやがる…」と呆れられるのが目に見えるのだが。

 凪沙は疲れた身体を横に向け、飛影の背中を見つめながら、そんなことを考えていた。そして彼女の視線に気付いた飛影は身支度の手を止め、ゆっくりと振り向くと。

「…なんだ」
「え?」
「何か言いたそうな顔をしているな」

 無意識に、機嫌を損ねた表情をしていたのだろうか。飛影の言葉に凪沙は「そんなつもりはないよ」と答えるが、彼は納得しかなかったようで彼女の横に肘をついて寝そべった。
 先ほどついた室内灯が煌々と、今度は飛影の引き締まった身体を照らしてくれている。そして凪沙の目の前にある飛影の顔…その紅き瞳が何度見ても綺麗でじっと見つめてしまう。
 その一方、飛影は凪沙の視線に応えるかのよう、空いた手で彼女の肩まで布団をかけ、次いで手を背に回した。

 今までも、そしてこれからもそうなのだろうが、決して言葉には出さぬものの飛影は凪沙にこういった優しさを垣間見せてくれる。普段はぶっきらぼうで捻くれた事しか言わないくせに。気付けばそんな彼の虜になって、度々見せるこの甘い優しさに浸かって、彼への好意は以前よりも増した気がする。
 …今なら、多少の甘えも許されるだろうか。凪沙はそんな事をぼんやりと考えながら飛影の胸板に顔を埋め、そして手を彼の背に回した。

「…!…珍しいな、」

 飛影は素直に驚き、目を丸くさせた。
 事後、こんな風に甘えてくる凪沙は今まであまり見たことがなかったからだ。飛影は滅多に見せない彼女の姿に思わずぽつりと呟くが、当の本人は特に反応もせず顔を埋めている。

 …何か、あったのだろうか。そんな一抹の不安が一瞬飛影の脳裏に過る。そしてここ最近の事や先ほどまでの行為を回顧し、回想するが、特別思い当たる節はなかった。加えて、改めて凪沙を見やれば肩を震わせて涙しているわけでもなさそうだ。

 原因はよく分からなかったが、このまま何もしないのも彼女を不安にさせるだろうか。飛影は少々思案を巡らせた後、凪沙の背に回した手で髪を梳き始めた。
 頭皮から毛先までゆっくりと手櫛で梳かされ、時折頭を撫でてくれるその感覚に、凪沙は再び微睡みに浸かりそうになった。…心地よくて安心する。飛影が傍にいてくれて、私を見てくれて、嬉しい。そんな思いが心の底から湧き上がってくるようだった。

 しばらくの間、飛影に身体を預けていた凪沙はようやく顔を上げると、自身を見下ろす彼と視線が絡まる。飛影の表情は最初、眉間に皺が寄り案じている様子だったが、凪沙の顔を確認すると一瞬で気が抜けたようだった。何故なら、凪沙の顔は満面の笑みで頬は緩み、心配など全く必要なさそうな状態だったからだ。
 飛影は呆れつつ安堵し吐息を漏らすと、凪沙の首根っこの辺りに己の腕を入れ、腕枕を始めた。先ほどよりも、より身体が密着している。
 触れあっているところから互いの熱を感じ、絡み合う視線に惹かれるよう二人は目を閉じた。

「飛影、」
「…少し黙ってろ」

 触れるだけの口づけは、段々と激しさを増した。…先ほどもあれだけ散々したのに、まだ足りないのか。そんな言葉が凪沙の口から出そうだったが、やはり飛影はそれを許してくれなかった。
 凪沙の口腔内に飛影の舌が入った。事後という事もあってか、入れられた舌は味わうようにゆっくりと絡ませ、優しく吸ったり歯列をなぞったりと、動きを止めない。
それに加えて腕枕をしている手で凪沙の頬を固定し、空いた手は彼女の膨らみのあたりを弄っていた。
 …あれ、おかしいな。そんなつもりはなかったのに。口づけされている凪沙は薄らと目を開けると、飛影の瞼や前髪が視界に飛び込んできた。意外と睫毛が長い所やさらさらの髪が羨ましかったりと、意識が全く別の方向にいったものだから、このまま飛影のやりたいように身を預けてもいいかもしれない。と、思い始めた。
 結局、飛影の事が大好きで、こんな甘い時間を共有すると何でも許せてしまいそうになるほど、虜になっているのだと改めて実感する。…愛してもらえて幸せだなあ。

 しばらくの間口づけを堪能した飛影はゆっくりと顔を離し、そして彼の舌は唇から凪沙の首筋から鎖骨にかけ、少しずつ降りてきた。所々赤い印をつけ、更に舐め回されるその感覚に、自然と凪沙の身体がピクリと反応する。その様子に満足したのか、飛影はようやく顔を上げた。頬を紅潮させ、とろんとした目をする凪沙と飛影の視線が絡んだ。

「…随分と間抜けな面をしているな。そんなに良かったか?」

 敢えて煽るような、素直の欠片もない言葉を飛影は放つ。いつもの凪沙なら眉を上げ、突っかかってくるはず…だったのだが。

「…うん。…もっと、してほしい」
「――!!」

 意外な返答に、飛影は面食らった。だが、凪沙の懇願する瞳や甘えを全面に出す表情、身体を密着させる動きが、冗談ではなさそうだ。それを解した瞬間、飛影は己の下半身に熱を再び感じることとなり、腕枕を外して凪沙に馬乗りした。
 凪沙の言葉や訴え、そしてその表情のまま見上げる彼女に、飛影の理性を保つ糸がぷつんと切れた。

「…どうなっても知らんぞ」
「うん、いいよ」
「――!フン…。凪沙から俺を誘うとはな。いい度胸だ。なら、お望み通り枯れるまで鳴かせてやる」

 にやり、と口角を上げた飛影だが、言葉とは裏腹に身体を撫ぜる手つきが優しいのは当に知っている。…最後まで、本当に素直じゃないんだから。でも、これが彼の最大限の魅力であり、最上級の愛情表現なのだ。
 それを唯一知っているのは、この関係の特権。誰にも教えないし、誰かに譲る気も更々ない。

 凪沙と飛影は、再び口づけを交わした。

 夜は、まだまだ長い。



我が愛を喰らえ



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