38 開かれる魔界の扉

コエンマは怪訝な表情で、眉間に皺を寄せて事の次第を話し始めた。
人間界と魔界を繋ごうとしている境界トンネル…それを作ろうとしている者がいる。新たな敵が浮上した、という事だった。
その境界トンネルは、暗黒武術会でオーナーを務めた左京が企んでいたもの。その意思を継ぐ者が人間界に存在するというのだ。

「…そんな事、人の手でやろうとしているというのですか…!?」

その発想事態がまるで信じられない、と蔵馬は焦りを見せるが、コエンマは否定しなかった。
そもそも魔界というのは地下に潜む深いビルのようなもの。その中で霊界が管理しているのはごく一部に限り、領域を広げるには長い年月が必要となる。ただ、地下が深くなればなるほど危険性が高くなり、同時に妖怪の強さを表す階級も比例してゆく。
そして魔界から人間界に妖怪が行けぬよう霊界は結界を張っているのだが、それが破られれば戸愚呂クラス以上の妖怪の出入りを許してしまう。

凪沙や桑原、城戸たちを除く全員に衝撃が走った。…人間界に危機が迫っている。誰もが言葉を失った。
桑原に至っては周りの会話を察し、ただならぬ事態が起きている事を汲んで怪訝な表情になり、

「何が一体、どうなってんだよ…」

と、零した。



桑原に事の次第を説明した一同は、ひとまず海藤の魂を戻すことに。幻海の手により魂が戻ると無事計画が進んだ事を察した海藤は安堵した。

「どうやら無事に話が進んだようだね…」
「あぁ。かなり悪趣味な自己紹介だったよ。…海藤、お前の事だ。自分で禁句を言ったらどうなるか、知りたかったんだろう」

蔵馬が問うた。海藤の性格上、どうしても知りたかったのが目に見える。

「あぁ。その通りだ…」
「けどよお、自分で魂を戻せないなら、ばあさんがいなけりゃどうなってたんだよ?」
「勿論、おっちんでたさ」
「いぃ!?」

驚く幽助を尻目に、幻海は続けた。魂というのは一番無防備で丸一日放っておけばすぐさまあの世生きたという。
彼等三人が幻海の元を訪ねて来たのはそういった理由だった。海藤が自分自身で禁句を発言したら一体どうなるのか。それを試したところ、魂が抜けてしまい助けを求めにきたのだ。
凪沙と彼等三人が幻海邸で会ったのは、海藤が助けられた後だったらしい。

そして話がひと段落した際、再びぼたんの鞄から電子音が鳴り響く。

「…またコエンマ様からだわ」

再度鞄を開け、画面を確認すれば難色を示すコエンマの姿が。先ほどよりも緊張感が増しているその様に、何かが起きたと一同は察した。

「魔界の穴は凄まじいスピードで広がっている!最終段階まで遅くとも、あと三週間だ…!」
「あ、あと三週間で…戸愚呂クラスの妖怪が人間界に…!?おいコエンマ、穴を塞ぐ方法は何かねーのか!?」
「…穴を広げようとしている術者を倒すしかない。本拠地は蟲寄市だ。空間の歪みは現在、1.3キロメートル。これが2キロメートルになり、穴が広がり切ってしまっては、もう…」

そこでコエンマは口を紡ぐ。言わずもがな、その先に出る言葉など全員が分かり切った事だった。

「術者は、この空間の中心に穴を広げているはずだ」
「穴の中心か!場所が分かりゃこっちのモンだぜ!早い話し、その術者って奴をぶちのめせばいいんだな!?蟲寄市だって言うなら、コイツらの地元じゃねえか!おい、おめーらそこへ案内しやがれ!」

幽助が拳を作り、戸惑う城戸、海藤、柳沢に迫るのだが。

「…こンの阿呆ダラ!!」

すかさず幻海がそれを止めるよう、手を振りかざせば幽助の身体は一回転し、頭上から地へ落ちた。頭部に走る痛みに堪え、涙目で「何しやがんでえ!!」と訴えれば、幻海の鬼のような形相が幽助を捉えた。

「本っ当に大馬鹿野郎だね!一体何のためにこんな芝居までやったと思ってるんだい!…幽助、桑原、蔵馬、飛影、あんた達四人は強い。ただ、闘いのやり方次第では命を落とす危険性も十分あるって事だ…それを知ってほしいがためにこんな芝居をやったんだよ!」

敵の方からわざわざ能力を力を教えてくれるわけがない。相手を知り、冷静に、着実に戦っていくことが、今回の戦いに必要な事だった。それを教えるためにこんな小芝居をしたというのに、幽助の言動に幻海は頭を抱えた。

「フン、馬鹿め…」

それを横目で見ていた飛影は呆れるように零したが、彼もまた敵の挑発にまんまと乗っかり魂が抜けれた旨を幻海に指摘されれば「うっ、…」と言葉が詰まっていた。

「あぁ!?んだよ飛影も引っかかったのかよ〜!ったく間抜けな奴だぜ。凪沙が見てる前だってのにそりゃあねえよな〜?」

ニヤニヤしながら飛影を挑発する幽助。ただでさえプライドの高い飛影を、尚且つ凪沙の名を出しておちょくったものだから、飛影のこめかみには青筋が出来ていた。

「…幽助、死にたいのか…?」
「おぉ、なんだ、やんのかコラァ?」

視線を交わす中、火花が飛び散っているかの如く睨み合う幽助と飛影。緊急事態だと再三言っているにも関わらず、相も変わらない二人の様に幻海は勿論周りも呆れ始めてきた。
そして傍観しつつどうしたものか、と考えていた凪沙に、蔵馬は「止められるのは凪沙ちゃんしかいませんよ」と腕を小突かれ、しぶしぶ仲裁に入ればようやく二人は離れた。

「…魔界の穴についての話しは、現時点ではここまでなんじゃが…。…君、凪沙と言ったな?」
「え?…あ、はい…」

ちょうど仲裁の様を見ていたコエンマが、声を掛けた。

「先ほども述べたが、霊界で君の事を調べさせてもらった。その事は、ここにいる全員に知っておいてほしい。今からワシが話すこと、覚悟して聞いてもらえるか?」
「…!…はい」

凪沙の表情が硬くなる。
そして周りも緊張が走ったが、コエンマは一拍置いて話し始めた。

「凪沙の事…言わば家系じゃな。既に知っているかもしれぬが、君の母方の家系は昔から“女”だけが霊力が長け、様々な力を持ってこの世に生を受けてきた。…間違いないな?」
「はい…。それは幻海のおばあちゃん伝いですが、母が話していた事に間違いありません」
「ふむ、では続けよう…。君の母の家系が何故女だけが特有の力を持っていたのか。過去を遡って調べたところ、ある事が分かった。…母の家系、即ち、君の先祖に妖怪がいたんじゃ。その妖怪とは…人魚族という種族だ」
「なっ…人魚族!?」

凪沙の声を待たずして幽助が声を上げた。そして驚愕しつつ凪沙の顔を確認するが、幽助と相反し冷静な表情をしている彼女に疑問符が上がる。

「おい、凪沙、なんで驚かねーんだよ…妖怪だぞ!?お前の先祖、人魚だって…」
「…幽助、心配してくれてありがとう。でも、そのことはもう…」
「凪沙は既に一度人魚の姿になったんだ」

眉を下げ説明する凪沙を案じ、幻海は代弁した。幽助は益々解せない、という表情になり、ぼたんや桑原もハラハラしてその様を見守っている。
コエンマは嘆息をつくと続けた。

「やはりそうであったか。その瞳の色…最初、君を見た時に確信したんじゃ。赤子の時から膨大な霊力を持って生まれ、今ではそれと共に生きてきたわけだが、今回の境界トンネルの影響できっと妖怪としての血が目覚めたのだろう」
「…でも、コエンマさん。私、その…人魚族っていう妖怪の事、何も知らないんです。以前人魚の姿になった時、下半身が魚になったり、髪が伸びたり声が変わったりして…身体への変化は十分分かったんですが、そもそもどういう妖怪だったのか…」
「それは俺から説明しますね」

隣に並んだ蔵馬が声を掛けた。「何故、蔵馬が?」と凪沙を始め、他の者も疑問に思う。蔵馬は確認の意で飛影を一瞥し、彼と一瞬視線が交わると話し始めた。

「俺は凪沙ちゃんが人魚族の血を引いているんじゃないかと前々から思っていたんです。それで以前、霊界に行って資料を見させてもらいました」
「うむ、そうじゃったな。では、蔵馬、頼んだぞ」
「えぇ」



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