Strawberry touch


「名前…」

まどろみの中、私を呼ぶ声がする。
覚醒して行く意識へ…
薔薇の香り。


「名前…?
そろそろ起きないと…」
『ぅ…ん…?』
「それとも
俺に…食べて欲しいのかな…」

目を開ければ、覗く翡翠色の瞳と、サラサラした明るい紅い髪。

…食べて欲しい?

『……、く
らま…?
食べ…』

頬に降りる指先が、やんわりと頬を撫でる感覚。
飛び込んだ翡翠色の瞳。
フッと意地悪っぽく笑うと、赤い髪が私の頬をくすぐった。

『ンッ…
くすぐ、ったい』

瞳は開いてはいるが、まだ完全には起きていない様で。
名前は目を擦りながら起き上がろうとしたが、引っ張られる様にソファへと体が戻される。

「…ここでうたた寝したら、風邪きひますよ?
ほら起きて。」

やれやれ言った様に首を傾けると蔵馬は肩と腰に手を回し抱き上げて起し、座らせる形でソファへと体をもたれ掛けさした。

『…ん…?
私…寝てた?』
「ええ…グッスリ。
ほっておいたら朝まで起きないんじゃないかと思う位…」

クスクスと蔵馬が笑いながら、顔を近付けてそして額へ触れる。

ああ…この香りのせいだ。

『あ〜あ…もうすこしだったのにな…』
「もう少し?」

自分を見る翡翠の瞳を見てからふうっとため息を吐いた名前。
残念そうな瞳を開いて。

その顔に肩をすくめてから離れると蔵馬は名前の隣りへと座った。

『…薔薇の中で…
ケーキがでてきて…食べようとしたら…目が覚めた。』

名前の夢の話らしい。
その言葉に蔵馬は噴き出す。

「フフッ…
何を言い出すかと思えば…
そんな事なんだ』
『だって…
夢でもコレは重要と言うか』
「…でも、名前らしいですね。」

そう言って、長く綺麗な指先で頭を撫でた蔵馬。
柔らかな感覚。
彼特有の匂いに混じる…

『…甘い香りが…したんだけどな』
「ああ…これのせいでしょう?」

頭の上から指先をゆっくり離して、名前の頬から口元へと誘導する様撫でてから、テーブルへと顔を傾けて、視線を移す蔵馬。

テーブルの上には生クリームで綺麗にデコレーションされて、真っ赤ないちごがのっている。

一人分には大きく、二人分には小さなケーキ。

紅茶とコーヒーから湯気が上がっていてて…

今日は名前の誕生日で、二人でご飯を食べて、蔵馬の家へ来た。

しばらく話していたが、用事をしに下に下りた彼。

その間にどうやら寝てしまっていたらしい。

『ケーキ…
これだよ…出てきたの!!』

形とかは曖昧で覚えてないけれど…
でも、やっぱりこの甘い香りと…

彼の…薔薇の香り。

それは一緒だった。

『うん、そのせいだよ。夢みたのは…』

だからおかしくなんてないんだからと身を乗り出してから主張すれば、クスクスと笑う声。

『く…らまさん、そんなにおかしい?』
「ふふ。すみません。
さながら赤ずきんみたいだって思いましたが…」
『赤ずきん?
なに、それ…』

くるくる変わる瞳と、表情。
仕草、言葉…
全てが愛くるしくて。

こっちの事です≠ニ言ってから蔵馬はまた笑った。

「じゃあ…夢の続きをどうぞ
お姫様」
『わーお、凄いセリフ』
「…眠り姫みたいに寝てたのは誰です?」
『そ、れは…そうだけど…でもお姫様って言うには』
「…俺にとっては…名前はずっとお姫様ですよ。」

そう言い、蔵馬は後ろから腰に手を回すと抱き上げて、テーブルへと彼女を向けさせてそっと髪を撫でる。

相変わらず敵わない人だ。
人の時をあわせても自分より永く生きている蔵馬
永くと言うよりは性格もある。
そのまま自分も腰を滑らすと、後ろから名前を抱き抱える様にして、蔵馬はソファに背を向けて座り込んだ。
こうなればもう、全て敵わないから諦めてしまった。
それに抱きしめてくる彼は心地よい。

『…あれ?切らないの?蔵馬のは…?』

見れば机にはフォークが一つ。

「オレは良いです。甘い物は…名前だけで…」

後ろから声がして、話す蔵馬の振動と背中には広い胸のぬくもり、そして薔薇の香り。

そして目の前には、一人ではちょこっと大きい甘い匂いのケーキ。

『…?
名前だけ??』

蔵馬の言う意図が分からず、疑問にも思うが、
取りあえず、ケーキを口に運んだ。

甘すぎずなクリーム、それに合わせてバランスの取れた甘さの柔らかなスポンジが口の中で溶ける様。

『美味しい!!
でも…こんなに食べたら…太ってしまうかも…」
「大丈夫、また走れば…」
『あ、そうね…』

彼女は、学生時代から走る事が好きでスポーツが得意。
少しに悩み気に言っていたのに走ったらいいかと納得した彼女。
昨日もどうやらそうだったらしい。
それもあり、つかれていたんだろう。
もちろん仕事だったのもある。
蔵馬は少し笑いそうになったが、彼女からも甘い香りがする。
白い細い腕に、柔らかな肌触り。

「だけどそうですね〜。これ以上色々育っちゃうと…大変…かな」
『ひやぁっ!!!』

腰から蔵馬は名前の胸へと手をやった
唐突の事で変な悲鳴をあげ、身を捩る。

「名前も甘い香りがする。いちごみたいだ…やっぱり食べたいな。」
『そう言えばさっき…食べて欲しいって言ってた…のは
それ…?』

声が耳元へ近付いたかと思えば、耳へ、そして首筋へとキスを落してきた。

『ちょ…やっ!!』

首筋へと、くすぐったい甘い感覚。

身をよじって抜け出そうとした名前を蔵馬がそのまま抱え込む様に今度はソファへと押しつけて。
そして、片手で両手を掴むともう片方の手で引き寄せ囚われた腕の中。

「甘いですよ。オレから逃げれると思いますか?」

間近に迫るのは、悪戯な色に変えた、翡翠の瞳。
この瞳は…
分かってる。
甘い様でいて…危険信号。

『っ…
ちょ…ケーキ…が食べれないでしょ!?
…名前のいちご…』

もはやもう、抜け出せない程に近く捉えられて。
思考回路がついていかず。
彼女自身何を言いたいのか、分からなくなっているみたいだ。
それでも逃げ道を作るために抵抗を試みた結果らしい。

「大丈夫、ケーキは食べさせてあげますよ?」

蔵馬はいちごを含んだ後、名前の口へと押し込む。

絡んだ舌の先でいちごの味。

さっき食べた生クリームと混じって、


甘酸っぱい…
それは、

『いちご…ケーキの味…』

やっと離れた唇。
名前は顔を赤くして蔵馬を見上げて言った。

「オレからすれば、名前自身がいちごみたいですけど…ね。」


柔らかな、感覚。

甘い香り。


優しい肌触り。


「…ケーキ…食べたい?それとも…
俺に食べられたい?」


見透かす翡翠の瞳でそう言って


流れる紅い髪で…


勝てない誘惑。


Strawberry touch

続きは…


いちごに触れる様に柔らかく

甘い感触でいて。


「やっぱり…俺も食べる…名前≠ね…」

ハッピーバースデー、名前

そう言ってキスをして…首筋へも
胸元にも

甘いキスの嵐、囚われた私は…
逃げられないと諦めて身を任せた。

(私の誕生日なのに、ご褒美って…食べられた)








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