優勝は愛する貴方


「気分はどうです?」
「…うん、だいぶ良くなった」
「良かった。ハーブティー淹れたから飲むと良い」
「ありがとう」

 優しく微笑む蔵馬からカップを受け取り、良い香りがするハーブティーを一口飲んだ。…気分が落ち着く。少しずつ口にしているとだんだんと身体が温まってきた。

 今日は久々のデートの約束をした日だったのだが、こんなタイミングで名前は月一のアレになってしまったわけで。家を出る前に薬を飲んだものの、痛みと貧血に敵わず、待ち合わせ場所まで辿り着くのが精一杯だった。
 明らかに名前の顔色が悪いことに蔵馬はすぐ気付き、事情を話すと「それは仕方ないよね」とそれ以上深くは聞かず、結局彼の家にお邪魔することになった。事情を理解してくれたことも勿論だが、ご丁寧にベッドまで運んでくれて、よく眠れるようにアロマまで焚いてくれた。
 自分で言うのもなんだが、本当に良い男を捕まえたものだ。

「顔色、戻ってきたね」
「蔵馬のおかげだよ、ありがとうね。…でも、せっかく水族館行こうって誘ってくれたのに行けなくてごめん…」
「いや、気にしないで。水族館はまたいつでも行けるさ。…それに、俺としてはこうして名前とゆっくり家で過ごすのも悪くないって思ってるから」
「…なんで?だって、私こんなだし、つまらなくない?」
「…分かってないなぁ」
「へ?」

 マグカップを受け取り、きょとんとしている名前をよそに、蔵馬はいそいそとベッドに入ってきた。
 …なんだ、この状況。ぽかんとしていたのも束の間。起こされていた名前の上半身は蔵馬の手によって布団の中へ。気付けば腕枕をされ、目の前には端正な彼の顔が。
 …ますます状況が理解が出来ない。

「あの、蔵馬さん?」
「俺さ、昨日までテストだったんだよね。今回の内容結構難しくてさ」
「…うん、勉強忙しいからなかなか電話できなかったもんね」
「そう、ここ数日寝不足だったんだよ。だから、一緒に寝ようか」
「…は?」

ね、いいでしょう?と優しい眼差しで微笑む蔵馬。
 痛みのある腹部を擦り、腕枕をしてくれている手で髪を梳き、額をくっつけ甘いマスクを見せてくれる――こんなの、ずるい。ずるすぎる。

 前世の私よ、一体どんな徳を積んできてくださったのでしょうか。今にも天に召されそうなこの状況、どうしてくれるというのだ。

「…鼻の穴からも血、出そうなんだけど」
「こら、女の子がそういうこと言わない」
「…、ごめんなさい」

 雰囲気をぶち壊したせいでムスッとする、そんな彼も愛おしい。
 月一のアレと、女として生まれてきた自分に盛大に感謝し、静かに瞼を閉じた。







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