冬のオリオン


 寒いね、とはにかんだ名前の吐息は白く染まり、宙に浮いていった。
 冷えた空気が肌に触れ、無意識に顔の半分をマフラーに埋める。そんな仕草を見て「人間は大変だなあ」と凍矢は他人事のように思っていた。

「凍矢はいいね。氷の使い手だから寒さなんて平気でしょう?」
「あぁ。この寒さは心地良いくらいだ」
「えぇ…。信じられない…。私もそんな事言ってみたいなあ」
「寧ろ、俺は夏の溶けるような暑さの中まともに生活しているお前たち人間の方がすごいと思うぞ」
「あれはエアコンのおかげだよ。…まぁ、暑いのも嫌だけどね」
「…我儘な奴」
「正直者、って言ってもらいたいんだけど?」

 べ、と名前は悪戯に舌を見せてきた。
 惚れた弱みなのか、そんな些細なやり取りの中でも小さく胸が鳴ってしまい、凍矢は悔しかった。日々修行に励む名前を思うとこんな姿、全く想像がつかないのに。不覚にも、一瞬でも可愛いと思ってしまった。

「…今日も星が綺麗だね」

 ぽつりと呟く名前につられて上空を見れば、小さな星屑が散りばめた星空が一面に広がっている。空気が冴え、頬を撫ぜる風に冷たさを感じながらも、その美しき光景からは 目を逸らせなかった。
 山奥での修行がしばらく続き、お互い疲弊していたが、暗闇の中でこの星空を堪能できたのはご褒美と捉えても罰は当たらないだろう。

 凍矢は、悴む手を擦り合わせ必死に吐息で温める名前の右手を掴み、己のポケットの中へ突っ込んだ。
 当然、名前は突如右手からじんわり伝わる温かさに驚き、目を丸くしたのだが。

「…凍矢の手、あったかい」

 鼻を赤くし、頬を緩ませるその笑顔に、またしても凍矢の胸が高まる。ポケットの中で繋がれている手…小さな掌、細い指が、やはり己とは違うことを示している。共に修行に励む間はよきライバルであるが、こうして見るとやはり“女”であることを認めざるを得ない。

 今、俺は一体どんな表情をしているのだろう。もし、酎や鈴駒がこの場にいたら、間違いなく冷やかしの言葉が飛んでくるに違いない…そんな自覚はあった。

 …そろそろ、いつまで経っても戻ってこない我等を陣あたりが探しに来るだろう。それまでの間、二人でこうしていたい。それが凍矢の正直な思いだった。

「…なぁ、またここに来たいか?」
「うん!また凍矢と星空、見たいな」
「…そうか」

 次は望遠鏡でも持って星座を見てみようか。流れ星を待ってみようか。
 そんな期待を胸に、繋いだ手を離さず二人だけの時間を堪能した。星空は、今日も澄んでいる。







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