職権濫用


「コエンマ様ー!コエンマ様ー!…入りますよー?」

 名前が扉を静かに開けると、最初に目に入ったのは山積みになった書類だった。先日この部屋を訪れた時よりも、遥かに量が増えている。「やってもやっても終わらん!」と嘆いていた我が上司に心底同情した。一体今まで、どれほどの時間をかけてこの仕事をこなしてきたのだろうか。
 山積みの書類の中でうつ伏せになり、ぐーすか気持ちよさそうに眠っているコエンマのものへ、そっと近付いてみる。

「…ん、名前か…」
「起こしてしまいました?」
「いや、うたた寝してただけじゃから…」

 名前の気配を察知したのだろう。コエンマは薄ら目を開け、ひとつ大きな欠伸をすると、首を曲げ肩を回し始めた。関節部分からは、なんともまぁ素晴らしい音が鳴っている。

「だいぶお疲れのようですね。肩でも揉みましょうか?」
「おー、助かるわい。親父の奴、ワシに何か恨みでもあってこんな量を押し付けてくるんじゃろうか」
「さぁ…。どうでしょうねぇ…」

 相槌しながらも名前は肩を揉み続けた。コエンマの方は筋肉が凝り固まっているので、これはかなり辛そうだ。しばらくの間、揉んだり擦ったりを繰り返してくうちに、少しずつ肩回りが温かくなってきた。どうやら血流が良くなってきたようだ。

「そうです?少しは良くなりました?」
「あぁ…気持ち良い…極楽じゃ…」
「コエンマ様ったら大袈裟ですね」
「もうよいぞ。ありがとうな」
「いえ、どういたしまして」
「…あっ、そうじゃ」
「どうかなさいました?」

 その瞬間、コエンマが振り向きざまに自身の唇に己のそれを押し付けてきた。いつの間にかおしゃぶりも外されている。
 何が起こったのか瞬時に理解できず、名前が何度か瞬きをした。だが、ようやく思考が追い付いた頃、目の前にあった暗さは既に晴れていた。

「…もーらいっ」

 白い歯を見せて、悪戯な笑顔を向けるコエンマ。それと同時に、名前の顔の熱も上昇する。

「…っ!もう!!コエンマ様ったら!!!」
「良いではないか、ちょっとくらいイチャついたって!ワシだって我慢してるんじゃ!」
「だからって!不意打ちなんてずるいです!」
「…ほう、では不意打ちでなければ問題ない、という事じゃな?」

 にやり、と何か企んでいるこの笑顔。…不味い。余計な事を言うんじゃなかった。名前のそんな焦りを知ってか知らずか、コエンマの嫌らしい笑みは尚も続いている。

「…今晩、ワシの寝室に来るんじゃぞ。良いな?」

耳元で囁かれたその一言。それは上司から一気に恋仲への顔に豹変したも同然だ。名前にしてみれば、そんな彼の言葉に逆らえること等、到底できるわけもなく、ただただ悔しそうに、そして恨めしそうに睨むのが精一杯だった。

「…コエンマ様のえっち」
「何をっ!お前っ今全国の男を敵に回したぞ!!」







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