熱も心音も共存して溶け合う。


*色々オリジナル要素高く捏造多め。




柔らかい光と高く蒼い空の色、魔界とは違う…
少し汗ばむ様な温度で。
空も空気も…全て…

「おい…何かあいつ…機嫌悪くないか?」

鈴木が小さな声で言うと休んでいた酎が続く。

「ああ…メチャ悪いな…」

取りあえず手合わせをして、ある程度のノルマを終えた鈴木と酎は今休憩中。
凍矢も最初は陣と組手をしていたが、途中から二人と手合わせをして。
凍矢なりにも今日の修行は終わりまた彼も近くへと座る。
木にもたれた凍矢がふぅと息を吐いた。

「陣も…だが…あいつも…本当困ったヤツだ」

陣は鈴駒相手に拳を思いっきり当て付け、まだまだ≠ニ言い地を蹴り懐へと飛び込む。
鈴駒も当然負けては居ないが、少し疲れの色も見えて。

「ああ、もう…なんでオイラが…
って、甘い!」

鈴駒が駒で縛り拳を止めるが、陣はぐっと引っ張り上げ纏めて糸を引く。

「同じ手ばっか使うんじゃねぇ…」

とは言え腕が動かない、陣は顔をいがめると引く力を強くした。

(めちゃくちゃ怒ってる…)

鈴木と酎はそう心で思ったが口にはせず。

鈴木さえも身震いを覚える様な陣の力。

凍矢だけが冷静に見ていた。
慣れていると言う方が正しい。

ずっと前から陣と共に生活して、また戦ってきた。
困ったヤツと言うのは…

今ここにいない名前。

渡るぬるい風に凍矢は空を仰いで慣れない光に目を細めた。

名前の後始末は慣れているし、もちろん扱い方も知っている。

陣に関してもだが、今日は上手くいかなかった様だ。

陣の妖気は敵と戦ってもないのにピリピリ…長い付き合い、分かりやすいのだが。

「俺だって努力はした…名前だって分かっていたハズ」

答えてくれやしない空へと零した凍矢。
陣へさり気ないフォローだってしたのだが。
陣の怒りの矛先は今…

寺の外へ修業に向かう途中。

大概いつも決まった同じ様なメンバーが散り散りとゆく。

そんな中、死々若丸が名前を止めた。
たまには別の相手が良いと。

名前は断ったが、何だかんだ言われて結局死々若といってしまった。
死々若は大勢とは組まない性格。

一人で瞑想したり、また鈴木だったり。

陣が止めるのも聞かずに二人で行ってしまって、
それから…

今の状況。

『ちょっと…真面目にしてよ…!』

名前が言えば、さっきと同じ様に笑う死々若。
グッと握りしめた手を隙が出来た場所へ。

しかし死々若はあっさりと掴んで止めた。

「真面目にしてるが…」

片手で名前の攻撃を余裕で交わしてるだけで何も攻撃しない死々若。

名前はイライラしながら問い掛ければ、鼻で笑うのが見えた。

そう、あの時と同じ。

断った名前に対して死々若丸はこう挑発してきた。

修羅の忍びとは言え…俺だって女なんぞ相手にはしたくないんだ。
勝敗は見えているからな…

と。

この言葉に名前は死々若と組む事に。
陣、そして凍矢の反対を押し切って。

目の前、ことごとく交わされ止められる度、笑む口元。
その余裕さが全て…
追いつけない事もあるが馬鹿にした態度に拍車がかかる。

『…手を抜いてる…のは
何、余裕があるって言いたいの?
そっちがその気なら…』
「なんだ?」

パシンと乾いた音と共に、顔の横に来た名前の拳を掴んだ死々若。

ギリッと力を入れてみるが、押す事も敵わない力。

名前は一瞬だまり息を整える…

『…貴方がその気なら…』

そう言い、後ろへと体を回転させ下がった名前はふうっと大きく息を吐いて伏せていた瞳を再び開いた。

『…本気で行く…』
「へぇ…」

本気じゃなかったのかと言う様な笑いをする死々若へと地を蹴り真直ぐ走り込んだ。

『こっちも遠慮なんかしない!!』
「はっ、攻撃が直線過ぎて失笑する…」

真っ直ぐにくる彼女。
変わらずな攻撃と、そんな中目の前光が走って。
熱い突風。

名前が放った炎。

寸前で避けた死々若の懐へ来ていた彼女。
握りしめた手のひらが頬をかすり髪を数本落とした。
しかし止まることはなく、次々と入り込む。
死々若の余裕の笑顔は薄らぎ、交わすのに彼は少し息が上がった。

「く…」

いつのまにか追いやられていた崖の上、小さな水しぶきが顔へと、そんな中再び頬へ来た拳へ力を入れて払えば体制が崩れた名前。

そのまま彼女を滝の上から川へと落とした。

ザバンと水音と共に何か鈍い音がして小さな悲鳴、名前が尻餅をつく姿があった。

「勝負あったな…」

川が浅かったらしいが、頭から濡れた彼女は手の甲で顔を拭う。
そんな名前の前へ立ち手を伸ばす死々若丸。
彼なりの…謝罪。

つい本気になってしまった。

『いい。いらない…』

そう言うがなかなか立たずに、前髪の雫を払う名前の姿に死々若は一瞬手を止めてしまった。
差し出した手のひらを見たが今更引っ込みがつかない。

「どうした?腰抜かしたのか?」
『違うわよ。』

ゆっくり立ち上がりだがなんだか…
名前の立ち方に違和感を感じた死々若。

『今日は私の負け…認めるわ…
もう良いでしょ』

伸ばされた手のひらを軽く押して。
ザブザブと音をさせながら川から出る名前は右足を引きずっていた。

「お前…足…」

一瞬顔が赤く強張るのが見えたがそっとそっぽを向く名前。

『あんたのせいじゃないわよ。私がバカなの!
これ位自分で治せる』

ツンケンした彼女の態度はいつもの事で、だが分かりやすい攻撃と一緒、真っ直ぐで直線的なのだ。
しかし負けず嫌いが災いして、素直では無い<cm。

「おい、お前…」
『それより…死々若
次は負けないからね!』

追って追いついた自分へ、距離を縮めて一差し指で彼の鼻元を指差す。
それは初めて名を呼ぶもので。

「ふっ…ガキだな。お前は…」

ム…
ムカつく…!!

しかしここで怒ったらまた子ども扱いした上弱者扱いをされるのは目に見えてるから…
だまり込む名前。

「取りあえず手をかしてやるから…こい。」
『いらないってば!』

足を庇いながら歩く癖に直も手を出さない名前。

「女は素直な方が良いぞ?」
『あんたにだけは言われたくない…』

その返事に悪戯心からか…死々若丸の感情に火がつく。

「陣…
奴の前ならお前は素直な女なんだろ?」
『……!?』

陣と言う名前にピクリと反応して名前が赤くなるのが分かる。
分かりやすい反応。
それが…とても。

『なによそれ…馬鹿みたい。』

完全に敵対視する名前。
いつも自分に神経を立てている彼女が気に食わない。
彼女が安心した顔をみせるのは…いつも陣
きっと忍び仲間で長いからだけではなく。

背中を向ける名前を後ろから腕を掴み自分へとひきよせた。

『ちょ…離して!』

暴れる名前を容赦なく押さえ付ける。
さっきより浅い場所だが川上へ押し付ければ、簡単に奪えた体制。
ゆらゆら水面が揺れて。

『…奴は男だったか?』
『何それ、止めてよバカ…』

その言葉に水面へと背を預けていた名前の顔が怒りと嫌悪に変わるのが分かった。

『あんた嫌い!大嫌い…!
気安く…触らない、で』

左足で蹴飛ばすと一瞬抜け出したが…また押さえ付ける死々若。

『っつ…』

名前の顔色が変わるのが視界に入って、必死に抵抗する力は強く。
そう、強い…
真っ直ぐな先にある感情は腹ただしいモノ。
結びついた気がしたが、切れた何か。
その瞬間なぜそんな行動を起こしたのか一瞬分からなかったが、抵抗する手を押さえつけ…
気が付けば彼女の唇を奪っていた。

『…やっ!』

咄嗟の事に噛み付いた名前、死々若の唇に血が滲む。
彼も…ここまでするつもりはなかった。
ただ…自分を拒否するこいつを黙らせたかった。

「………、」
『何す…、』

見上げて目をやっと合わせた名前の瞳は。
いつもの強さは無く、自分へと初めて見せた色と水面へ流れる髪が何故か何処か色艶に映る。

今まで感じた事が無かったモノに疼くモノ…

「…奴も…」

その顔を押さえると首筋に口を押し当てた。

『っう、やめ…』

口付けてギュッと吸い付くと、ピクンと体が揺れたのは分かった。
反応しても甘くない声が物語る事。

『嫌だ…やめてよ…
…、』

最後に囁く様に漏れた名前。
彼女から助けを呼ぶ声は別の男の名前。

「これで、奴にはしばらく会えないな…」

名前の首筋に死々若のつけた赤い印が刻まれる。
押さえつけていた手を離したが、名前は身をそのままに。

『なん…で…こんな事…』

肩の服の乱れを震える手で直しながらやっと起き上がる名前の髪から…雫が落ちて水面へ円を描く。
一つ、また一つ…小さな波紋。

「さあな。お前のその顔が見たかっただけかも…」
『…っつ…最低!』

弾く音と共に頬に小さな痛み。
名前は痛む足を引きずって走り去って行く。

その後ろ姿が完全に視界から消えるのを見送ってから死々若は名前を押さ付けた自分の手を見下ろした。

「…見たかっただけ…か
愚かな理由…いや言い訳か…」

大した強さでは無いのに、ジンジンとする頬の熱。
自分の手のひらから落ちた雫で出来た波紋が…揺れて。

手のひらをゆっくりと握って、死々若は空を仰ぎ見た先は蒼。

蒼い空は皮肉にも鮮やかに秘めた心を映し出した。


「…名前」

ボソリと名前を口にした凍矢。
夕食の用意は出来てるが肝心の名前がいない。
死々若も居ないが、先に帰ってきたはずだ。
そんな凍矢へと鈴木が顔を覗いてどうがしたのかと聞いてきた。

「いや…」
「もしかして名前を探してるのか?
彼女なら部屋にかえったぞ」
「どう言う事だ?」
「さっき廊下ですれ違ってな…」

そう鈴木が言ったと同時に風呂上がりの陣が入って来て。
陣は何も言わず、流れる空気をいち早く察知した凍矢だったがそれを遮る鈴駒。

「陣…!
オイラ明日は付き合わないからね。
って言うか遅いの珍しいじゃん」

座って食べ始めていた鈴駒が陣へ、いつも彼が食べる場所を指差してから食べないの≠ニ言ってご飯を口へ運ぶ。

言われた陣は頭にあったタオルで雑に髪を拭くと、ゆっくり目を開く。

「いや…俺は…
いい…」

拭いて投げると、背を向け部屋を後にしようとした陣を凍矢が掴む。
だがそれに触るなっちゃ…≠ニ低音に呟いた。

出ていってしまった陣を確かめてから鈴木がぽつりぽつり、言葉を探しながら話す。

「…いいのか、凍矢?」
「今更…お前も分かっていて聞いてるだろう」
「う、うむ。まあ、な…」

鈴木でさえ気が付いた変化へ凍矢は息を吐く。
とは言え止める事が出来ないのも分かっている。
そう、止める事が出来たのならば、最初から行かせてはいないのだから。


名前の部屋へ来た陣は、そっと縁側へそして空へと目を移せば、紫紺の色。
空はもう暗くなり、星が一つ光る。

さっきまでの自分の不甲斐無さが情けなく。
髪をかき上げてからそっと名前≠ニ呟いて襖を叩いた。

『…名前?』

名前からの返事はない。
部屋から気配はするのに…

「………、寝てるのか?開けんぞ」

一応断って出来るだけ明るい声で陣は開ける。
中へ入れば部屋は真っ暗。
明かりを付けようとした陣を止める様にして、手を掴んだ名前。

『やっぱ、起きてんじゃねーか。
どした?」

見れば名前は頭から布団をかぶっている
そして暗いせいじゃない。
顔色が悪い。

「…なんだよ、腹でもいてぇんか?」
『…バカ…』

小さく笑い手を伸す自分に一瞬躊躇した名前。
再び明かりをつけようとした手を掴む。

『ちょっと…疲れちゃって…
私、もう寝る、から』

違和感と言うより確信かも知れない。
何か変だ。

「あいつと何かあったのか?」
『何もない
…何もなかった!』

長年見て来た。
彼女の答える声は…明らかに恐怖の色。
ギュッと掴む手のひらからも分かる。

影っていた空から月明りが差し名前を映し出して、見つけてしまう。

それは死々若につけられた赤い刻み。

「…それ…」
『ッ…』

赤い刻みを触る陣の手へピクンと反応した名前。
それは…自分に向けられた物ではないが、恐怖からだろう。
それは安易に分かった。

『あ…ごめ…』
「奴が…やったんか」

うつむいて答えない名前へ今朝思った感情に繋がって何かが頭ではじけて切れた。

部屋を出ようとした陣を名前が止める。

『本当…何もなかったんだってば!』
「何も…なかった?」

死々若を庇った訳では無いが、陣の性格は知っている。
明るく無邪気、優しい笑顔の裏にある顔。

またこんな跡を付けられて陣にとっても何もなかったではない。
押し倒して押さえつけると名前の赤い刻みへと触れた。

「俺は…言ったよな…止めとけって…」
『ご…ごめん。
…だから』
「…オメーは女だと言う意識がなさすぎるっちゃ…
んで…俺たち修羅の忍びの中で一番非力だって事も」

月明りに照らされた自分を映す陣の深い藍色。
そう、非力さから暗黒武術会にも出られず。
明るく、無邪気な彼。
彼を怒らせたら怖いのも知っている。
だからそう、だからこそ。
今の陣の瞳に恐怖が込み上げる。

『気をつける…
…次からは気を付けるから!』

恐怖からか目を瞑り、どうにか抜け出そうとじゃの腕を掴み暴れるけど…。
簡単に抜け出す相手ではない。
特に今は…陣が見て来た様に、自分も見て来た。
分かる…
彼の瞳の感情は
怒り…

「許すと思う?
思ってないよな、名前」

両手を名前の頭の横で押さえつけ遂に名前は自由を奪われてしまった。

『ごめん!ごめんな…さ』

謝っても無駄だと解っていても必死に謝る。

「謝っても…無駄だべ」

分かってるよなと、そういって塞がれた口。
普段、自分へと彼は柔らかな感情をぶつけても怒りに任せた感情を押しつける事はしない。
けれど、呼吸を奪う舌の先から…
彼の怒りが伝わって来るのが解る。
今、陣自身を支配する感情は、気が付かない振りをしていた嫉妬心。

『んっ!ふっっ…』

陣とキスしたのは今日が始めてじゃない。けれど、口を滑り混む舌は乱暴で…

押さえる腕は痛いモノ。

首筋に胸に肩、陣が触れてくる手は優しいぬくもりじゃない。
目の前にいる…彼は別人の様で…だけど知っている本来の。

『っつ…!じ、
陣…』

必死にやっとの力で、震えながら握りかえした彼の手のひら。
触れた指先から伝わる彼女が感じてる恐怖心。
だけど…どうしても譲れないモノがあって、煽られ逸る気持ち。

「無駄だって…俺…」
『ッう、やっ…
陣…』

首筋へと吸い付いてく、ギュッと強く。
その度に、反応する声。

頭の中で否定する何か。
胸の奥の奥で止まれと言う何か…
だけど…

「…名前」
『…ご、ごめんなさい…陣…』

抵抗しなくなった名前の手のひらは力なく地にあって。
だけどそっと頬へ伸ばされたもう片方の手のひらは力強いもの。

「…俺…って…」

陣は小さく呟きながら身を起こし目を閉じて口元を拭う。
時間にすれば数秒の事だが、名前にとってそれは長く…
長く感じ、再び開く瞳は柔らかい藍。

「オメーだけ責めるのは…違うよな
良くなんかねぇっちゃ」
『…陣…?』
「…けど名前…
コレだけは譲れねぇんだ」

首元へそっと顔を寄せキツくギュッと噛み付く様にキスをした陣。
死々若が付けた跡へ、陣は上から付ける刻みの痕。

嫉妬と共に刻んで、証と共に嫉妬を切り離す。
忘れるのでは無く離す感情。

倒れ込むとそっと名前を引き寄せ腕に収めた陣。
腕に引き込んで抱きしめると陣はそっと後頭部へ手を回す。

「…乱暴な事してごめんな…名前」
『そ、そんな…』
「行かせた俺にも責任があるっちゃ。
無理に止めて置けば良かったんだ、なのに俺」
『違う、陣は止めたのに…止めてくれたのに
行った私が』

いや俺が、違う私がと言う言葉が重なり。
同時にお互いごめん≠ニ言う言葉が重なり合う。
お互いに吹き出して、笑う私の頬へ手を置いて愛おしそうに目を細めた。

いつもの…彼にある優しい柔らかな瞳。

「…名前好きだ…
俺…オメーが凄く好きだ」

そう言って額へ優しく口付ける陣。
柔らかな熱。

「やっぱ…ここだけじゃ足りないっちゃ」
『…陣、んっ』

今度は柔らかい口付け、だけど甘く深く。
甘いモノに溶けて、微睡む意識。
時折漏れる息が甘くて、恥ずかしい。

腕にいる名前に本当は煽られて、甘くこのまましてしまいたいのが本音。
だけど、やっぱり…怖い思いをさせたくはない。
自然体で繋がっていたいから。

「…名前…もう何もしないから…
安心して寝ろ…
眠そうにしてるぞ、オメー」
『…うん…』
「…名前をこうするの、久しぶりだ。
なんかくすぐってぇな…」
『…そうだね、久しぶり…陣の…』

胸元へと顔を寄せれば届く陣の熱。
届く心音、綺麗なリズムで刻む音。
誰よりも何処よりも安心する場所。
昔から変わらないもの。
忍びとして生きる運命を受けたあの日から…
二人、熱を分け合って心音も共存してきた。

うとうと微睡み始めた私に気がついたのか、陣は背中ヘ手を回し柔らかく叩く。
変わらない安心するモノに身を任せ、来た睡魔へそっと目を閉じた。

『私、ずっと一緒にいる…から
陣もずっと一緒にいてね。
これからも…』

私の言葉に照れたのが分かったけど、私は眠りへと落ちていく。
陣からの優しい柔らかな温度と心音に導かれて。

それは俺のセリフだって…そう心で囁いて、名前を腕に収めながら窓へ視線を向ける。
ここは月だけは変わらず、光を降らせて…

「…これからも名前は俺が守る
ずっと守るから、だから…

オメーもずっと一緒にいてくれよな」

そっと額へ口付ければ、小さく寝息を漏らす名前。
目に届く変わらない寝顔、ずっと見てきた名前。
手の中にある、彼女の温度も全て。
安心する自分の場所、それはお互いの居場所。
 
届く名前の温度に陣も眠りへと…



彼女が伝える温度に応えて温度を伝える、お互いずっと。

今までもこれからも…


お互いずっと一緒にそうやって生きてきた。

陣は名前を支え、また名前は陣を支えて。

これからも先も変わらない。


縛い合う共存じゃない、支え合う共存。




***
いつも寝坊がちな陣は名前より先に目を覚まして、ある場所を目指す。
それは…
冷静になった頭へと手で触れてから陣は名を呼んだ。
死々若の名を…

「…って、オメーその頬どうした?」
「朝寝坊の貴様が珍しいな…」

死々若はいつもいる朝、いつもの場所で刀を手入れし終えて、それを鞘へしまう。

「報復なら奴から受けたが…
お前も…か…?」

死々若の頬へ、小さな痣。
よく見ないと分からない程度だが、確かに。
自分ではない、だとすれば…

「凍矢…だな…
ったく…」
「………お前らは…本当」

そう言うと死々若は真っ直ぐ陣を見る。
そして続けた、お前は…どうする≠ニ。
陣は手のひらへ拳を打ちつけニッと笑う。

「もちろん、俺からも報復はするだ。
死々若…覚悟しろ…!」

スッと目を閉じた死々若の頬を思いっきり殴る陣。
凍矢が殴ったであろう頬とは逆の頬を。
まともに受け死々若は気怠そうに目を細めると口元を拭う。

「…手加減なしだな…」
「当たり前っちゃ。
…今度名前に悪さしたらコレだけじゃ済ませねぇからな…!」
「…大切なお前の女≠セからか?」

くだらんとばかりにそう言うと死々若は背を向けその場を後にする。
眩しい朝の光へアメシストの双眼を顰めて…

「…全く…くだらん」

陣の真の顔に気が付いた時に、分かっていた、この想いが成就する事は無いと。

だけど…想いは止められなかったらしい。
いや、今も。

「黙っていても、女の方から寄って来て…
苦労などした事無かったんだが…」

これからも、この先も成就する事の無い感情へ死々若は目を伏せた。

想いはそのままで。








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