ドキドキの続き
「いぎゃああ!!無理無理怖い怖いいい!!」
「っせーな!!てめーいい加減にしろよ!」
「だって!!怖いもんは怖いんだって!!!」
ぎゃーぎゃー叫びながら名前は幽助の腕を掴んだ。だって、怖いもんは誰が何と言おうと怖いのだ。
名前は、意地を張って幽助にしょーもない喧嘩を吹っ掛けるんじゃなかった、と今更後悔する。「私、ホラー映画なんて余裕だから!」なんて威勢を張ったのが運の尽き。
今にもテレビから飛び出してきそうな幽霊…と呼ぶにはあまりにもかけ離れたおぞましい生物。ゾンビ化しているそれは数十分前は人間だったのに。あんまりだ、と思いながらも怖いもの見たさで指の隙間からどうにか見ていたが、ストーリーの終盤に近づいて来たのか、これでもかというくらいにグロテスクな場面が出るわ出るわ。
心臓に悪い衝撃的なシーンが続いてるせいで、いよいよ指の隙間では足りず、気付けば隣にいる幽助の腕に絡んで見ていた。「ちょ、何すんだやめろよ!」とごねる幽助など、もはや知らない。ここまで来たらどうにか最後まで見てやると、新たな意地が芽生え始めたのだから。
わーわー叫び、幽助に引っ付いてどうにかこうにか観ていたら、ようやくエンディング曲とテロップが流れ始めた。よし、最後まで観てやったぞ。と、謎の達成感と共に、自然と幽助から身体を離そうとした。…のだが。
「…おい、名前」
「え、」
「このまま帰るとか言うなよ?」
今度は幽助が名前の腕を離さず、寧ろ顔の距離を詰めてきた。心なしか、彼の頬は少々赤い。それにつられ、こちらも変な緊張が走る。
「…何で?だってこのDVD、桑原君に返さないと、」
「んなモン今じゃなくていいだろう。…てめーが引っ付いてきたせいだからな。最後まで付き合えよ」
「いや、何言って、」
「ほーお、まな板みてーな胸押し付けてよくそんな事言えるな?」
「なっ…!!!」
呆れた。そのまな板みたいなお胸に欲情してるのはどこのどいつだ!そしてなんで上から目線なんだ!こちとら恐怖でいっぱいで、そんな気一切なかったのに。と、言い返そうとしたけれど。
「今更怖い、とか言うなよな?」
にやり、とした幽助お得意のあの笑顔。それを見せてきたという事は、まだまだ帰れそうにない事を悟った。そしてこちらが抵抗出来ないのを知った上で、この男はあっという間に覆いかぶさってきたのだった。